2024年7月16日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2017年5月3日

アベノミクスの成果と限界

アベノミクスの当初は成功だった。しかし、要因が①アナウンスメント効果、②円安の進行、③公共投資の増大、④消費税率引き上げ前の駆け込み需要、という一時的なものであったため、成果も一時的なものに終わってしまった。

 概ね同意します。ただ、著者は「公共投資はカンフル剤のようなもので、効果は一時的である」と考えているようですが、そこは疑問です。公共投資で景気の方向を変える事が出来れば、景気が自力で回復を続ける事が出来るはずです。「マッチで部屋を暖める事は出来ないが、マッチでストーブに火をつければ部屋は暖まる」というわけです。

異次元金融緩和の限界が明らかになる中で、「出口」への模索が始まる(または始まっている)。

 異次元緩和は、もともと効果が無いはずでしたが、「偽薬効果」で景気が回復してしまったのです。それが明らかになるにつれ、効果が無くなるのは当然の事です。「金融緩和で世の中に資金が出回れば、株価が上がり、景気が良くなる」と言われていたのに、「世の中に資金が出回らなかったけれども株価は上がった」わけですから(笑)。

 過去の経緯はさておき、景気が回復し、失業率も低く、企業収益も好調なのですから、出口に向かい始めるべきでしょう。インフレ率を2%にする必要などありません。日銀幹部のメンツ以外には(笑)。

新3本の矢(名目GDP600兆円、希望出生率1.8の実現、介護離職ゼロ)は、問題意識は適切だが、具体的な数値目標には問題が多い。目標を掲げるより、適切な施策を積み重ねる事が重要。

 「これは3本の矢ではなく、3つの的である」と言っていた人がいたようですが、たしかに目標数値を示すより、「何をするか」を示す方が重要でしょう。

経済政策が劣化してきている。経済専門家の考えが政策に反映されにくくなっているからだ。政府内でのエコノミストの地位を高め、よりエビデンスに基づく政策形成を図るべきだ。

 その通りですが、エコノミストの中にも、色々な人がいますから(笑)、誰を選ぶのかが問題でしょう。エコノミストを選ぶのが経済を知らない政治家だったりして(笑)。

 エビデンスに基づく政策形成は、理念としては良いのですが、実際には過去の政策の効果が測定しにくい(不況期に公共投資をやらなかったら何が起きていたか、実験してみる事が出来ないので、公共投資の効果が測れない)という問題があります。

 今ひとつ、データは過去のものなので、バックミラーを見ながら運転するようなものです。銀行業界の話ですが、バブル期には「昨年の不動産融資は一件も焦げ付きませんでした。不動産融資は安全ですから増やしましょう」と言った銀行員がいたとか(笑)。


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