2024年12月27日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2017年5月3日

構造改革のカギを握る働き方の改革

人手不足が成長を制約している。女性、労働者、外国人などの労働市場への参入を促進し、労働生産性を引き上げるため、働き方改革が必要だ。

 その通りですね。ただ、「労働力が不足しているから非正規労働者の待遇が改善しつつある」という面もあるので、プラス面にも注目する必要はあるでしょう。

従来の働き方が構造改革を阻害しているので、働き方改革が必要だ。終身雇用、年功序列などが、正規・非正規の格差、雇用の固定化、ベンチャーが出にくい風土などの課題と関係している。

 終身雇用制が経済のダイナミズムを阻害していることは同意しますが、一方で社員の安心の源ですから、簡単には変わらないでしょう。「終身雇用の会社と、そうでない会社が併存する経済」ならば、可能でしょうが、前者を選ぶ学生が多いような気がします。

従来型の働き方は、女性の子育てのための機会費用を高め、男性の家事・育児参加を阻むことなどによって、少子化の要因となっている。

 全く同意です。「育児のために正社員をやめ、数年後に仕事を再開すると、非正規となってしまうので、生涯所得が大幅にダウンする。それなら子供は作らない」という女性も多いのでしょうね。じつは、「数年間は家政婦でも家事代行でも金に糸目をつけずに雇う」ことで、生涯所得が維持できるのですが……。

メンバーシップ型の働き方が、時代の変化にうまく合わなくなってきている。一つには、雇用が固定化し、流動性が乏しくなってしまうからである。また、経済社会環境がめまぐるしく変化するのにあわせて雇用も移るべきである。

 メンバーシップ型は終身雇用で、反対概念はジョブ型(専門能力に応じて企業を移る)です。上にも記したように、従業員の安心感も重要な要因なので、終身雇用は続くと思います。著者も、「改革は非常に難しい」と認めているくらいですから。

 もっとも、これからは労働力不足を映じて中途採用が増えるでしょうから、流動性は少しずつ高まっていくでしょう。せめてもの救いですね。

ジョブ型なら、女性が出産する事の機会費用が小さくて済む。

 全く同意です。出産して子育てしてから再び正社員として勤める事が出来るなら、生涯所得は出産・子育てによって大きく落ち込む事が無く、少子化の要因の一つが取り除かれるでしょう。

 しかし、男性総合職はメンバーシップ型を望む人が多いでしょうから、「女性総合職はジョブ型が多い」という棲み分けが進むのかも知れません。企業がどう対応するのか、なかなか難しそうですね。

財政再建と社会保障

財政破綻を避けるには、消費税率を上げるか社会保障を削る必要があるが、「民主主義の失敗」状態にあるため、いずれも難しい。国民の危機意識が甘く、それに媚びている政府も問題だ。

 これは常識的な見解ですが、これについては評者は少数説を採っているため、異議があります。「景気は税収という金の卵を産む鶏」なので、政治家の人気取りとは関係なく、増税(社会保障改革を含む、以下同様)を焦って景気を冷やす事には慎重になるべきです。今後、少子高齢化による労働力不足が深刻化すれば、「増税して景気が悪化しても失業者が増えない」ようになるでしょうから、それまで待てば良いのです。

 今ひとつ、増税を消費税に頼るのではなく、相続税を増税すれば良いでしょう。国民の痛税感も景気への影響も、遥かに消費税より小さいはずです。特に、「配偶者と子のいない被相続人の財産は、兄弟姉妹ではなく国が没収する」と決めれば、数十年後には巨額の税収が見込めるでしょう。生涯未婚率が急激に上昇していますし、子のいない夫婦も多いですから。


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