2024年12月5日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2017年5月3日

 『日本経済論講義』(日経BP社)。本書は、小峰隆夫教授が、ビジネスパーソン向けに行なったセミナーの内容をまとめたものです。対象がビジネスパーソンですから、難しい経済学理論というよりは、現実の経済をどう見るか、といった話が中心です。入門書とは言えませんが、経済に興味があり、経済関係のニュースを普段から読んでいる人なら、問題なく読めるでしょう。

 5回分のセミナーの内容が濃縮されていて、内容が多岐に渡るため、評者がコメントしたい所を恣意的に抜粋する事をお許し願います。下線部分は本書の内容の抜粋、それ以外は評者のコメントです。

 ちなみに、経済の話をする人には、経済学者(現実より経済学理論を優先する人)、景気の予想屋(景気そのものを予想する人)、株価の予想屋(株価を語るために景気の話をする人)、止まった時計(日本経済破滅論を説き続ける人など)、がいます(笑)。全員が自分のことを「エコノミスト」と呼びますが、本稿では景気の予想屋のことをエコノミストと呼ぶことにします。

 それぞれ、同じものを見ても、全く違う観点から話をします。著者も評者もエコノミストですので、株価等に主な関心がある方は、本書や本稿はあまり参考にならないと思います。あしからず。

 著者は、かつて経済企画庁(現在の内閣府)で経済白書を執筆されたこともあり、生きた経済を見る眼と経済学理論を両方備えている方です。評者は、著者を正統派エコノミストの第一人者であると確信しています。

 そんな著者の本に対し、評者が生意気なコメントをするのは恐縮ですが、読者の参考になればと思い、敢えて反論的なコメントも記しました。著者と比べると、評者は「経済学理論よりも生きた経済の実際」を重視する傾向があり、そうした視点のウエイトの違いが経済論議に与える影響を楽しんでいただければ幸いです。もちろん、評者が「天邪鬼」で少数説を唱えている部分も多いのですが(笑)。

(景気の見方)
景気の現状を掴むには、GDPと景気動向指数を見る。特に、景気動向指数の一致指数のグラフは景気の姿を見るのに適している。

 評者も、非専門家が一つだけ経済指標を見るなら、景気動向指数の一致指数だと思っています。個々の統計は振れるので、上がる物と下がる物があります。そこで、それらを「平均」してみたのが景気動向指数だ、と言えるでしょう。

今の景気を簡単に知るには、景気動向指数の判断文とESPフォーキャストを見る。景気を予測する時も、ESPフォーキャストを活用すると良い。

それらに加えて、内閣府と日銀の見解を参考にしたいです。彼らは日本の最高のエコノミスト集団なので。ESPフォーキャストは、民間エコノミストの見解の集約なので、便利です。

長期的な成長については供給面から、短期的な景気循環については需要面から考える。

 長期的な需要の予測は難しいですから、長期予測は供給面からなされるのです。その際、需要は普通の強さだと仮定する事になります。
バブル崩壊後の日本のように、長期にわたり需要不足が続くと「売れないので設備投資が行なわれず、供給力が増えない」という事も起こり得ますが、通常はそういう事は想定し得ないので(笑)。

賃金が増えても消費が増えないのは、家計が社会保障改革の遅れを気にしているから。

 これは、多数説なのですが、評者はかねてからこの説に疑問を抱いています。
「消費者は低レベルの生活水準を維持すると決意しており、増えた給料は全額貯金する(限界消費性向がゼロ)」という事なのでしょうか?将来に不安があっても、所得が増えたら消費も増えそうな気がしますが。

 この議論で評者が気になるのは、賃金が増える前も増えた後も、家計は社会保障改革の遅れを気にしているという事です(将来は年金がもらえないと心配しています)。「最近、社会保障が気になり始めたから、倹約する人が増えた」というならわかるのですが……。


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