築城が織り始めると、廊下が揺れ、窓ガラスが震える。聞き慣れた軽やかなトントンという打ち込みの音とはいささか違う、ドンドンドンッという重い音が響く。緯糸の3倍の密度の経糸は、踏み込みが甘かったりタイミングが悪いと踏んでも糸が上下してくれない。
「普通の織物より踏み込みにも打ち込みにも力が必要になりますね。整経はひたすら神経を使い、織るのは肉体労働です」
草木染めで手織りの一点ものとなると、どんなに頑張っても1年で20作品が限界。高価にならざるをえないし、問屋に直行してしまうので一般の人の目に触れる機会もほとんどない。また約35センチ幅の手織りは、帯や着物にはできても現代の日常生活の中に生かすのはむずかしい。
15年ほど前から、築城は機械織りで価格を下げることと同時に、広幅にして用途を広げることに着手。07年には機械織りの小倉織ブランド「小倉 縞縞(しましま)」が誕生した。140センチ幅まで広がった小倉織で、汎用性に富んだ商品展開やさまざまな分野とのコラボレーションなど、製造販売を一手に担うのは実妹の渡部英子。姉妹の絶妙なタッグで、風呂敷やバッグはもちろん、ウェア、小物類、カーテンや家具などインテリアにも築城のデザインした縞が息づき、小倉織は再び生活の場に戻ってきた。
築城の工房の名前は「遊生(ゆう)染織工房」。『梁塵秘抄』の「遊びをせんとや生まれけむ」からとった「遊生」だという。
「ものを作るには守らなければならないルールがいっぱいある。でもその中で、デザインする心は常に自由でいたい。縞は繰り返すのが原則だけれど、幅や色を変えながら時には規則性を超えて、直線で抽象や自由を表現したいんです」
深く小倉の自然と歴史を織り込んだ手織りと、汎用性を高め日本中へ、さらに世界へと生きる道を伸ばしていく機械織り。両輪を得た小倉織が、その縦の線のように力強く生き抜いてほしいと願いながら工房を後にした。
写真・阿部吉泰
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