――「指針の理解」というと、抽象的な大目標を共有することだと考えてしまいがちですが、そうではないんですね。
片渕:具体的なことのほうが共有しやすいですよね。アニメにはマニュアル化された「標準的な歩きの描き方」があります。でも、『この世界の片隅に』のキャラクターの歩きはマニュアルどおりではなく、「かかとを高く上げない」など自然な動きを目指しました。
掲げた指針を具体化していくと、自分のやろうとしていることが、ほかの“標準的なもの”とどう異なっているかが見えてくるんです。それが、その作品の“旗印”を鮮明に掲げることにも繋がります。
打ち合わせは楽しくなくちゃいけない
――スタッフとは、どうやってその「具体的な指針」を共有していったのでしょうか。
片淵:アニメーターが描く担当カットについて、監督が狙いを説明する「作画打ち合わせ(作打ち)」の場ですね。作打ちはとても大事で、だからこそ僕は楽しくなくちゃいけないと思っています。
作打ちでは演出家が一方的に話してもダメなんです。まして、そこで話す内容が退屈だとアニメーターも眠くなってしまう。相手の注意を喚起するように話を進めながら、時々相手にも話を振ります。合間に冗談で笑わせてもいいから、打合せの内容に対する興味をかきたてたほうがいいんです(笑)。
――モチベーションを上げるために、打ち合わせは楽しくあるべきだと。片渕監督はそういう打ち合わせのやり方をいつごろ体得されたのですか?
片渕:いつ、と具体的に言えるような感じではないですね。でも、剣道や柔道じゃないけれど、相手と対峙すると相手の気構えというのは伝わってきますよね。話をしながら「伝わっているな」とか「伝わっていないな」とか、相手の理解を見極めて対応を考えていくんです。
時には「ゆっくり歩く人って、どんなふうに歩いていると思う?」なんて聞いて、相手の考えを探ったり、こちらのイメージを伝えたりもします。