「バイ・アメリカン」政策の再検討と鉄鋼輸入調査開始という二つの措置について、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説が極めて明快な批判をしています。関税を掛ければ鉄鋼価格が上昇し、消費者やそれを使う企業のコストが高くなり、国全体としては雇用を失うとの議論は明快です。
措置の目的は、「バイ・アメリカン」の適用例外をできるだけさせないことであり、鉄鋼についてトランプは既に内々輸入規制を決めていると社説は述べます。調査結果は270日以内に出すことになっていますが、トランプは50日以内には出るだろうと述べました。セーフガード等ではなく安全保障を理由に輸入規制をやろうというのは少々問題でしょう。数値に基づく議論も難しくなります。安全保障と経済ナショナリズムが結びつくと厄介です。1989年のブッシュ政権発足時に起きた日米FSX(次期支援戦闘機開発)問題を思い出します。
トランプが貿易の分野でも動き出しました。1月23日にはTPP離脱を通報しました。2週間以内にはNAFTAの報告も出すといいます。トランプ政権は4月29日で発足後100日を迎えましたが未だ主要な実績がありません。最近のワシントンポスト紙とABCの世論調査では、歴代大統領の中で支持率が最も低い新大統領となっています。国民は離反しています。このことも貿易分野で選挙公約を前に進め実績を作ろうとの動機になっているのでしょう。
トランプの貿易経済側近の力関係がどうなるかも注目されます。バロンやナヴァロなどの強硬派に対してロスやムニューシン(財務長官)、コーン(NEC)、クシュナーなどが一線を画すのかどうかです。貿易政策も国防と同様に穏健化を強いられるのかどうかです。
今回の措置は中国を狙ったもの
今回の措置は中国を狙ったものだと言われます。しかしトランプは、目下の米中関係を配慮したのか、中国を狙ったものではないと述べました。他方、ロスは「鉄鋼生産能力を減らすとの中国側の繰り返しの主張にもかかわらず」輸入は増えていると指摘しています。他方、韓国では、米国によるアンチ・ダンピングや相殺関税への警戒が高まっています。
国家安全保障を理由に鉄鋼輸入規制が行われると、それは1995年のWTO発足後初めてとなります。WTOの紛争処理手続に提訴されるかもしれません。そうなればトランプ政権はWTOへの攻撃を強めるでしょう。そのような事態にならないように、日本は他の有志国と連携しWTOと戦後の国際貿易秩序を守っていかなければなりません。その意味で日本はEUとのFTA交渉妥結を図るべきですし、更に当面米国抜きの「TPP11」を進めることは極めて賢明な戦略だと考えられます。
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