対日戦略・工作面での「誤算」
胡錦濤指導部にとって参院選の民主党敗北は、「対日政策・戦略」「対日工作」の面でも手痛い「誤算」だった。
5月末に来日した温家宝首相は、鳩山首相(当時)との首脳会談で、これまで日本から強く求められても一貫して拒否し続けた問題について一転して自ら次のように提案。日本側を驚かせた。
(1)東シナ海ガス田をめぐる条約締結交渉の開始
(2)海上危機管理メカニズムの構築
(3)首相間のホットライン設置
中国政府の中堅幹部は、「サプライズ」の背景についてこう明かす。
「温首相の前向きな提案は、対日重視でぶれない胡指導部の一致した意見だった。『海の問題』をめぐって両国間ではいろいろな考えがあるが、何か偶発的なことが起こった際、解決できるメカニズムを作っておくことが大切だ」
「では(海上自衛隊護衛艦への異常接近など)東シナ海などでの中国海軍の動きはなくなるということなのか」と尋ねると、この中堅幹部はこう続けた。
「それは別問題だ」
「民主党で誰を窓口にすればいいのか分からない」
いずれにしても、「変心」した温首相は日本に前向きなメッセージを投げた。「蒋介石論文」にある「敵・友論」を用いてこう語った。
「中国は戦略上、日本をパートナー(友)とみなしており、『対手』(ライバル)ではなく、ましてや『敵手』(敵)でもない。双方はこの意識で相手と、相手の発展に向き合わなければならない」
中国の対日外交スタイルは、野党や民間も取り込む統一戦線論が基本だが、核心は政府・与党だ。「日本においては野党では問題を解決できず、中日復交問題の解決ではやはり自民党の政府に頼ることです」(『毛沢東外交文選』)
1972年9月、国交正常化交渉のため北京を訪れた田中角栄首相(当時)に対し、毛沢東主席はこう漏らしたのだ。
だから中国は日本の政権が変わるたびに、新首相が「友」か「敵」か、神経を尖らせる。昨年9月に政権交代した民主党内で親中的だった鳩山前首相、小沢前幹事長が辞任、菅新首相が誕生した際も、駐日大使館幹部は「対中政策に変化はないか」と情報収集に余念がなかった。
頼りにした小沢、鳩山両氏に続き、菅首相も求心力を失いつつあり、温首相のメッセージを菅首相が全力で受け止める余裕は当分ないだろう。中国に核軍縮を強く要求した岡田克也外相について中国筋は「異常な対応だ」と不快感を示しており、「民主党幹部の中で一体誰を窓口にすればいいのか分からない」と中国政府の対日当局者は嘆いている。
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