2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年7月14日

 日本政府は7月から、中国人の個人観光客のビザ発給要件を大幅に緩和、対象者は富裕層から中間層に拡大した。銀座の高級ブランドショップや秋葉原の電気街には高級品を買い漁る中国人の姿が日常茶飯事になった。ラオックスとレナウンが中国企業の傘下に入るなど、中国マネーは日本のブランド力を標的にしている。

 こうした「構造的変化」は、「台頭する中国、停滞する日本」という中で進行し、今年は「GDP(国内総生産)逆転」が実現する。日清戦争(1894~95年)以降、近代化において続いた「日本優位」が歴史的転換を迎えるのだ。

 こうした日本停滞の趨勢は、中国紙の解説によれば、日本政治の不安定化に比例して本格化する。そして政権運営や経済問題に苦慮して「内向き」を強める民主党政権が外交政策を後回しにする事態になれば、戦略的互恵関係が深化しないことを胡指導部は懸念しているのだ。

蒋介石と勝海舟の「日中観」

 明治時代以降、隣国である日本と中国は、相手国との付き合い方、向き合い方を真剣に考えてきた。

 国民政府の蒋介石は、満州事変(1931年)が勃発し、日中全面戦争を回避しようと『中央公論』(35年4月号)誌で発表した「日本は敵か友か」という論文を通じて日本にこうメッセージを送った。

 「歴史的、地理的及び民族的な関係の、何れの方面から見ても、その関係は唇歯輔車の関係以上にあるべく、実に生きれば、共に生き、死すれば共に死ぬ共存共亡の民族ではあるのである。究竟互に敵として共倒れとなるか?それとも友好を回復して、共に時代の使命を負ふべきか?」

 江戸時代末期の幕臣・勝海舟は日清戦争に際してこう語っている。

 「日清戦争はおれは大反対だつたよ。なぜかつて、兄弟喧嘩だもの犬も喰はないヂやないか。たとへ日本が勝つてもドーなる。支那はやはりスフインクスとして外国の奴らが分らぬに限る。支那の実力が分つたら最後、欧米からドシドシ押し掛けて来る。ツマリ欧米人が分らないうちに、日本は支那と組んで商業なり工業なり鉄道なりやるに限るよ」(江藤淳・松浦玲編『氷川清話』)

 両国の危機を迎え、日中を「運命共同体」ととらえた蒋介石、勝海舟は「提携こそ両国の利益」と呼び掛けた。今、日中両政府が標榜する「戦略的互恵関係」や、鳩山由紀夫前首相の打ち出した「東アジア共同体」も似たような発想から生まれているとも見ることができるのも興味深い。

 実は中国にとって、停滞するといえども日本は、持続可能な成長に不可欠な省エネ・環境技術を持つなど、高い利用価値を有することに変わりない。最近の中国は日本に次のような価値も見いだしている。

(1)胡政権が目指す「調和社会」のモデル
(2)不動産バブル崩壊を回避するための反面教師
(3)買収対象になり得るブランド力

 様々な分野で戦略的互恵関係を深めたいが、肝心の民主党政権の不安定ぶりが心許ないと見ているのだ。

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