2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2017年7月1日

「我々対彼ら」の対立構図を用いるトランプ

 トランプ大統領の演説には種々の顕著な特徴が存在します。第1に、ステレオタイプ(固定観念)を使います。有権者が持つ「イスラム教徒=テロリスト」並びに「不法移民=犯罪者」というステレオタイプを利用した政策を演説で正当化します。

 第2に、演説で対立構図を用います。例えば、「白人労働者対エスタブリッシュメント(既存の支配層)」「白人労働者対不法移民」及び「退役軍人対不法移民」があります。トランプ大統領は「我々(We)対彼ら(They)」という対立構図を作るのです。勿論、「我々」は同大統領を熱狂的に応援する白人労働者並びに退役軍人です。一方、「彼ら」はワシントンのエスタブリッシュメント、不法移民及びイスラム教徒を指します。対立構図を利用しながら、米国民が不法移民に殺害されたストーリーを語り恐怖心を煽るのです。

 対立構図を別の視点から分析しますと、内集団(In-group)対外集団(Out-group)になります。「我々」は内集団、「彼ら」は外集団に属します。一般に人は、自分が所属する内集団のメンバーに対しては好意的態度、外集団のそれには非好意的、嫌悪ないし憎悪の態度をとる傾向があります。2017年6月23日トランプ大統領はホワイトハウスに招待した退役軍人に向かって演説を行い、彼らの待遇改善を約束したうえで大統領令に署名しています。

 演説並びにツイッターを見ますと北朝鮮問題に関して、トランプ大統領は現段階では中国を「我々」に分類しています。ただ、中国の北朝鮮に対する戦略は明らかに機能しておらず、結果が出ていません。ロシア政府とトランプ陣営が共謀していたのではないかという「ロシアゲート疑惑」が深刻化する中で、同大統領の忍耐がいつまで続くのか予断を許しません。今後、同大統領にパラダイムシフト(物の見方の転換)が起こり、中国が「彼ら」ないし外集団になる可能性が無いとは言い切れません。

支持者固めを狙うトランプの演説

 第3に、トランプ大統領の演説には支持者固めの色が濃く出ています。2017年6月1日ホワイトハウスでの地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」離脱表明の演説を例にとってみましょう。同大統領は、「私はパリ市民ではなくピッツバーグ市民を代表するために選ばれた」と語気を強めて語り、支持基盤の労働者に訴えました。ピッツバーグに加えて、鉄鋼で栄えたオハイオ州ヤングスタウン及び自動車のメッカであったミシガン州デトロイトにも言及し、中西部の労働者を強く意識したメッセージを発信しています。

 「パリ協定」離脱表明は、労働者のみを標的としている訳ではありません。反オバマ色の強い保守派の市民運動「ティーパーティー」の支持者にもアピールしているのです。2012年米大統領選挙で南部サウスカロライナ州チャールストン在住のティーパーティー支持の親子を対象に、現地でヒアリング調査を実施しました。彼らは地球温暖化がリベラル派による「でっち上げ」であると信じていました。トランプ大統領の主張と一致しています。それに加えて、ティーパーティーの流れをくむ下院保守派「フリーダム・コーカス(自由議員連盟)」に所属する議員の支持確保にも「パリ協定」離脱表明は有効な手段です。

高度な非言語コミュニケーション能力を有するトランプ

 第4に、トランプ大統領の演台の使い方です。オバマ前大統領及びクリントン元国務長官は、集会で支持者が盛り上がると「ありがとう」と言って演説を続けてしまうのです。

 それに対して、トランプ大統領は集会に参加している支持者の声が熱を帯びて高まると、拍手をしながら一旦演台を離れます。雰囲気を共有する時間を作るのです。次に、自分の後方にいる支持者を指差したり、アイコンタクトをしながら両手で親指を立てるジェスチャー(サムズアップ)をして、「オッケー(OK)」というメッセージを送ります。非言語コミュニケーションは、同時進行ができるという点で「多チャンネル」であり、同大統領はその特徴を把握し最大限に活用しています。

 後方が熱狂的になると、それが連動して前方にいる支持者の士気も一層高まるのです。トランプ大統領は会場の熱狂さを維持してから、演説を再開します。そこがオバマ・クリントン両氏との相違です。


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