2024年4月27日(土)

World Energy Watch

2017年7月20日

ロシアの怖さを知った欧州

 ロシア・ガスプロムからの天然ガスは、2011年までは8割以上がウクライナ経由のパイプラインを通しEU諸国に供給されていたが、2006年と2009年にロシアはウクライナとのガス価格の交渉が合意しなかったことを理由にガス供給を停止したことがある。ウクライナ向けの供給を止めると、当然EU向け供給の大部分も停止することになった。供給停止は2006年も2009年も欧州が最も寒くなる1月に起こった。ロシアの怖さを知らしめるための当然のプーチンの選択だった。2009年の供給停止は10日以上に亘った。

 東欧諸国は天然ガス供給のほぼ100%をロシアに依存しており、2009年の供給停止時には凍死者がでるのではないかというほど追い込まれ、ロシアの怖さを知ることになる。その後、ウクライナを経由せずドイツに直接ガス供給を行うノード・ストリーム・パイプラインが完成したこともあり、現在ではウクライナ経由の比率は5割以下まで下落している。

 また、ロシアによる供給中断の怖さを学んだ欧州諸国は、天然ガスの備蓄設備の導入を進めた。しかし、備蓄装置を設置できたのは西欧の裕福な国であり、東欧諸国は十分な備蓄も持たず、多くの国は相変わらずロシアにほぼ100%の供給を依存している。

 欧州委員会は、天然ガス供給の中断に備え、隣国間で融通しあう制度の導入、柔軟性を持ってガスを流す装置の導入を進めているが、抜本的な問題の解決にはなっていない。特にロシア依存度が高いバルト3国、ポーランド、ハンガリーなどはロシア離れを進めるためLNG受け入れ基地の整備を行い、相互融通の計画も進めている。

ロシア離れを進めるバルト3国の取り組み

 エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト海に臨む3カ国(図‐3)は、第二次戦後ソ連邦に属したものの、1991年に独立を果たし、2004 年に北大西洋条約機構(NATO)とEUに加盟した。歴史的な経緯からロシアに対する強い警戒感を持っている地域だが、現在もロシアの電力網に組み込まれ、電力供給の調整をロシアに依存している。

 ロシア依存の状況を解消するため、ポーランドとリトアニア間の送電網を強化することにより、ロシアからEUの電力網に切り替えることが検討されている。目標は2025年とされ、その費用は1億9000万ユーロ(250億円)だが、ロシアにとっては大きな問題がある。ポーランドとリトアニアの間にはロシア領の飛び地、カリ―ニングラードがあり、バルト艦隊の拠点になっているのだ。飛び地がロシアの電力網から切り離され、独自に電力供給を行うことが必要になる。

 ロシアは同地にイスカンダルミサイルを新たに配置したが、5月にリトアニアを訪問した米国のマティス国防相が、地域を不安定化させると批判し、パトリオット迎撃ミサイルをバルト海諸国に設置するとツイートした。米国は、NATOの演習のためとしてパトリオットミサイルを7月中旬の期間に限定しリトアニアに設置した。エネルギー問題の解決は簡単ではない。

 バルト3カ国がロシアに依存しているのは電気だけではない。2014年時点では、3カ国ともに天然ガス消費量の100%をガスプロムからの輸入に依存していた。ラトビアは年消費量の1.3倍の備蓄を保有しているものの、他の2カ国は備蓄量ゼロという脆弱な状況だった。

 リトアニアは、船を利用したLNG受け入れ基地を作り、2015年にノルウェーからの天然ガスの受け入れを開始し、ロシアの独占体制に穴を開けた。2015年のガスプロムの供給シェアは83%になった。

 リトアニアは、さらに米ルイジアナ州にLNG輸出基地を持つチェニエール・エナジーとの間で購入契約を締結した。最初のデリバリーは8月後半に行われる予定だ。バルト海地域では、6月のポーランド向けに次ぐ米国LNGの輸入になる。ロシア依存からの脱却を図るリトアニアは現在新たに2基のLNG基地を建設中、ポーランドも2基を新規に計画している。欧州では地中海沿岸を中心にLNG基地の計画が目白押しになっている。


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