2024年4月19日(金)

イノベーションの風を読む

2017年7月31日

 SoftBank Worldは、ソフトバンクのクライアント企業や、ビジネスや技術面での連携をする企業などの法人向けのイベントです。その聴衆に向けて、最後に孫社長は「みんなで新しい時代のジェントリになることを、そして技術の冒険者になることを願っています」というメッセージを送りました。

 16世紀のイギリスにおいて、商業的に大成功し、王や貴族などの特権階級から土地を譲り受けて封建領主となり、金だけでなく名誉と地位を手にした中間層がジェントリと呼ばれています。彼らは資本家としての能力を発揮し、金融や海運などのサービスによって資本を蓄積して産業革命の原動力になったとされています。

 世界中で大論争を巻き起こした『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティは、世界中で富の分配の不平等化が進んでいると指摘しました。資本を持っている側は所有資本をどんどん大きくする一方で、労働者の所得はさほど上昇していない。ピケティは「富の継承(相続)が人々の社会的かつ政治的運命を決定する世界」へ逆戻りすると警告しましたが、富の配分の不平等化の主な原因は技術になりつつあります。技術主導の経済は、才能と運を持った少数の勝者への報酬を莫大なものにしています。

 技術だけでは人類をより幸せにすることはできません。「いまペッパーを馬鹿にしている人は、その進化形に追い抜かれていく」と切り捨てて、少数のジェントリだけで富を独占しようとするのであれば、格差はさらに拡大することになります。

政治は、技術主導の経済を制御する力を失っている

 冒険者は、危険な企てや試みに挑戦します。技術への冒険が、個人や組織の金銭的なリスクだけで行われるのであれば良いのですが、人類を危険にさらすものを生み出してしまう可能性もあります。大量のデータを吸い上げるIoTが個人のプライバシーを侵害しないか、街を歩き廻るロボットが人間に危害を加えることはないのか、技術の冒険者はスカイネットの暴走を予見できませんでした。

 すでに政治は、技術主導の経済を制御する力を失ってしまっています。孫社長には、「ジェントリの騎士道に従って、みずからの単なる富とか名声のためだけではなく、人類や地球上に生存するあらゆる生命体のために(孫社長)」、これらの懸念を払拭するための具体的な施策や仕組みの構築に積極的に投資し、取り組んで行くことを期待したいと思います。それは、IoTやスマートロボットに対する社会の許容性を拡大し、結果的にソフトバンクを成功に導くはずです。

  
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