今、犯罪発生率が一番低いのはスペイン
――先日スペインへ旅行した際に注意してみてみたら、確かに公園では一か所に遊具がまとまって、さりげなくフェンスや囲いがありました。
小宮:スペインの公園はよくできていますよ。大好きな国の一つです。私がその国の安全性についてよくチェックポイントにするのが横断歩道です。信号のない横断歩道を歩行者が渡ろうとするとき、車が止まるか止まらないか。スペインは止まりますし、横断歩道のずっと手前を歩いていたおばあさんが渡り切るまで待つ様子も見ました。止まらないのが日本と中国です(※)。スペインは実は今、国際比較の犯罪発生率が、数字上では一番低い国です。
(※)JAFが2016年に行った全国調査によれば、信号のない横断歩道で歩行者優先を守ったのは1万26台のうち、わずか757台(7.6%)だった。
――意外ですが、国連の「国際犯罪被害者調査」(2009年)では確かにそうですね。日本はスペインに次いで2番目に発生率が低いです。
小宮:ただ、暗数の問題がありますね。海外の場合は、暗数調査を毎年数万人規模で行っている国が多い。日本は4年に1回、数千人規模(法務省が実施:こちら)です。「それでは国際比較できない」「安全な国という根拠はない」と指摘を受けていますが、日本は暗数調査に予算を割いていません。
――日本は安全な国という認識が強いので、暗数調査に予算をかけないことに国内からの不満は少ないのかもしれません。
小宮:はい。小規模の調査とはいえ、私たちはその貴重なデータをもとに研究していきます。犯罪白書にも書いてありますが、逆算すると認知件数の5倍は犯罪が起きています。日本の警察が発表している検挙率は3割。これはあくまでも認知件数のうちの3割ですから、実際の検挙率は1割にも達していない。事件の9割以上は未解決です。
――確かに、取材をしてみると、事件化していない犯罪は案外多いのだなとは感じています。
小宮:物理的な条件だけ見れば、日本の公園とトイレは世界一危ないです。犯罪機会論を取り入れた設計になっていないからです。犯罪の動機が芽生える人が他国に比べれば少ないから犯罪総数も爆発的には増えていませんが、動機を持つ要素が欧米並みになれば、犯罪の機会だらけの環境です。こういう指摘をしても、「公園を悪用する人なんているんですか?」と言われてしまうのが日本の認識です。
日本の公共トイレの危険性
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トイレは公共の場所にある個室(人目につかない場所)であり、高い犯罪誘発性がある。海外では、「間違えたフリ」をしての侵入を防ぐために男子トイレと女子トイレの場所をできるだけ離して設置したり、男女のトイレのほかに男性障がい者用、女性障がい者用の4パターンを設ける例などがあることを小宮さんは紹介する。日本でよく見かける「だれでもトイレ」は「ゾーニングの発想が乏しい」と指摘。
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――「だれでもトイレ」で被害が起こったケースはこれまでもあるのに、その場所の危険性についての指摘はあまり見かけません。
小宮:先日初めて国技館へ行ったんです。非常に珍しいことに、国技館には「障がい者専用トイレ」がありました。「だれでもトイレ」ではなく、専用のトイレです。さすが国技館だなと思ってよく見たら、そのマークがついているドアの横に、更に「障がい者用トイレ」と書かれた大きな張り紙があったんですよ。障がい者ではない人が使ってしまうので、掲示を強化したようです。確かに、見ていたら、次から次へと車椅子に乗っていない人が、障がい者用トイレに入っていきました。
――私も混んでいたら気付かずに使ってしまうかもしれません……。
小宮:一般のトイレも、そんなに混んでいませんでした。要するに使ってしまう人は、あれが「だれでもトイレ」「みんなのトイレ」だと刷り込まれているのだと思います。そちらの方が多いですから。気付いていれば、少なくとも周囲にこのトイレを必要としている人がいないか見渡してから使うのではないかと思います。マイノリティへの配慮が不十分な人が多いという感じがします。犯罪被害に遭いやすい女性や子どももマイノリティです。