世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月18日

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 米政府は、中国による知的財産侵害の疑いがあるとして、通商法に基づき調査を始めることとなりました。8月14日にトランプ大統領が米通商代表部(USTR)に対する覚書で調査が妥当かどうかの検討を命じ、18日USTRが正式に調査を開始したと発表しました。

 調査の根拠法は、社説の言う通り米通商法302条b項であり、同項は、外国が米国に対し不公正な貿易慣行を実施していると判断した時は、関税の引き上げなどの制裁措置を取ることを定めた米通商法301条を適用すべきかどうかを調査するものです。

 日本では、今回の調査は米通商法301条に基づくものと報道されましたが、正確には、手続き的にはまず302条b項に基づいて調査が行われることになります。

 301条に基づく制裁は、WTOの規定にそぐわない一方的なものであり、米国が主導してきたルールに基づく貿易システムを弱めるうえに、中国の報復を招き、米中貿易戦争に発展する恐れがあります。

 ただし、中国の知的財産侵害の実態が、米国の許容限度を越えていることは事実です。USTRは、1)中国政府が、技術と財産権を移転させるため、いろいろな手段により在中の米企業の活動に対し、規制ないし介入をしていること、2)中国政府が、在中の米企業が技術を支配するのを妨げるために種々の措置を講じていること、3)中国政府が、中国の企業が在中米企業から最先端技術、知的財産を得るため、在中米企業に投資し、または在中米企業を買収するよう図っていること、4)中国政府が知的財産、貿易機密などを窃取するため、米国の商業コンピューター・ネットワークをサイバー攻撃していること、を調査の対象とすると述べています。

 確かに、調査の結果に基づき米国が制裁措置を取れば、中国が報復し、貿易戦争になる恐れは十分ありますが、USTRは調査開始から12ヶ月以内に結果を出すこととされています。

 したがって、制裁が実施されるとしてもだいぶ先のことであり、その間、米中間で貿易摩擦がエスカレートしないよう協議する時間があります。両国とも貿易戦争は望んでいないはずであり、知恵を絞って摩擦の拡大の阻止に努めることが求められます。

 そして、協議の結果、調査が撤回されることが望ましいです。301条の援用は1980年代末の日米貿易戦争時以来、再び悪しき前例となるからです。

 ただ、中国の重商主義的戦略は、「中国製造2025」計画をはじめ、習近平政権の経済政策の根幹の一つであり、容易なことでは修正に応じないでしょう。中国のこのような戦略は、米国のみならず、日本をはじめ他の先進経済諸国、そして途上国の利益にも反するものです。これらの国は、中国に政策を変更させるべく、国際的な連携を取るべきでしょう。
  
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