別の知識人も「最近、温首相のほかに『政治体制改革』に言及する政治局常務委員はいない。言わないより言う方がましだ」と語る。
「温支持」を掲げる北京電影学院の崔衛平教授は、自らのブログに9月11日発表した「政治言説」と題する文章で深圳での温家宝発言に関して3つの注目点を挙げる。
① 温発言中の「制度上、権力が過度に集中したり、権力を制約できなかったりする問題を解決する必要がある」は、「中国に存在する各種各様の問題の本質をずばり指摘したもの」であり、「例えば三権分立、多党制、選挙制、世論監督はすべて『権力制限』という政治目標を保証する道である」
② 温発言中の「人類社会一切の文明成果を大胆に学習し、手本にしなければならない」のうちの「人類社会一切の成果」は、「『普遍的価値』を言い換えた文言」である。温首相は2007年に「科学、民主、法制、自由、人権は資本主義だけが持っているものではなく、人類の長い歴史の過程で追求されてきた価値観」と表明したが、「(民主、人権など普遍的価値観を重視する考えは)温先生の一貫したものだった」
③ 温発言は、「(中国指導者が通常、「民主」に触れる際に枕詞となっている)『社会主義』を付けていない」
つまり温の発言は、社会主義の枠内にとどまらない「民主」を想起させるというわけだ。特に、権力の私物化が深刻化する中国において「権力制約」に関連して「権力は誰のものか」というのは政治改革の核心的テーマである。
別の知識人も、発表した文章で「政治改革があってこそ、温家宝は一躍中国民主の父となり、(ロシアの)エリツィン式の人物になることができる」と期待感を込めた。
政治改革の「姓社姓資」論争に
深圳での温発言の反響の大きさが、民間の知識人にとどまらず、共産党内にも広がっていることを示したのが、9月10日付『学習時報』に掲載された「政治体制改革推進は民意の向かうところ」と題する論評だった。「民主化は世界的な潮流だ」と、政治体制改革の深化を求め、温発言を明らかに支持した。
学習時報は共産党幹部養成学校「中央党校」機関紙。「開明的な論調を出し、議論を促す役目を担う」(共産党関係者)とされるが、党内における政治改革議論の方向性をうかがわせるものと言えよう。
さらに広東省党委員会機関紙『南方日報』は「特区は政治体制改革の先行者にならなければならない」と伝えたほか、国営新華社通信発行の時事問題誌『瞭望』も、週のネット話題を取り上げる「一周網談」で、「網民」(ネットユーザー)に代弁させる形で、「温発言」に対する政府内の雰囲気を伝えた。
「網民が言うところでは、腐敗、炭鉱事故、食品安全、環境汚染、暴力団組織勢力の氾濫、貧富格差拡大の勢い、どれも抑制できず、社会安定に影響を及ぼしている。このため政治体制改革推進は民心の向かうところだ」
ここで注目すべきは、「民意」と「民心」と違いはあるものの、政府系メディアがそろって「温発言」を受け、「政治体制改革推進」という方向性を打ち出したことだ。