2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月22日

 これに対し、社会主義民主と資本主義民主という「2種類の異なった民主を混同してはならない」と、論争にけん制球を投げたのが有力紙『光明日報』(9月4日付)。「『誰が統治するのか』という問題でも違った答えになる」。1990年代初めにも盛り上がった「姓社姓資」(社会主義か資本主義か)論争と同様の事態に発展している。

胡錦濤発言との温度差

 しかし温家宝に否定的な知識人の存在を忘れてはなるまい。その代表が著名作家の余傑だ。2006年に当時のブッシュ米大統領と会見した余は、8月中旬に温を痛烈に批判した『中国影帝温家宝(中国一の名優・温家宝)』を香港で出版した。その余に聞いてみた。

 「胡錦濤と温家宝の関係は、毛沢東主席と周恩来首相の関係と一緒。毛は嫌いだが、周は好きという者が多く、温も(胡に比べて)好感を持たれている。しかし胡と温はお互いに一つの方向に向かって連携しており、(彼らが権力基盤を強めた)04年以降、『国進民退』はひどくなり、報道の自由もより厳しくなった。温が改革の希望というのは間違った考えだ」 

 余傑は7月5日、公安当局に連行され、4時間半にわたり拘束された。「出版したら逮捕する」と脅された、と余は明かす。江沢民時代、余の著書は中国国内でも出版されたが、今は香港で出版しようとしても強い圧力が掛かり、事態は確かに後退している。

 「越来越緊」(どんどん引き締めが強くなっている)。開明派の共産党関係者も、人権活動家・弁護士やジャーナリストに対する中国政府の対応をこう表現した。

 一方、「温発言」から18日経った9月7日、今度は胡錦濤国家主席が深圳を訪れた。「深圳経済特区30周年祝賀大会」に出席、重要講話を行い、こう強調した。

 「全面的に経済体制、政治体制、文化体制、社会体制の改革を推進し、重要な領域やカギとなる段階の改革において突破するよう努力しなければならない」。胡は「民主」や「法治国家」の枕詞として「社会主義」というキーワードを付け、従来の共産党の見解から踏み出したものではなく、先の知識人たちに失望感が広がったのは言うまでもない。

持論曲げなかった温家宝

 筆者は6月30日の本コラム「中国の指導者に必要な『胡耀邦のDNA』とは?」で今年4月15日付の『人民日報』2面に掲載された温家宝の「再回興義憶耀邦」(興義を再訪し耀邦をしのぶ)という見出しの署名入り回想文をめぐる胡と温の関係について紹介したが、今回の温発言もこれと同様に、裏に潜む中南海内部の論争の実態は見えにくい。「温発言」の背後に果たして胡の意向があるかどうか。役割分担をしているだけなのか。あるいは温の単独行動なのか。

 ある知識人は、発表した文章の中でこう指摘した。「温家宝の講話はその開放性や開明性において他の共産党指導者を超越している。共産党上層部には比較的重大な食い違いが確実に存在している。温家宝の声は優勢を占めていないが、彼の講話は一定の効果や反応を引き起こすだろう」


新着記事

»もっと見る