2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2017年9月28日

――90年代からのコミュニケーション重視への変更も政財界の要請だったのでしょうか?

鳥飼:そうです。中曽根康弘首相在任時に、政治主導の臨時教育審議会が開催されました。その第二次答申では、ハッキリと、文法訳読中心の英語教育を、コミュニケーションに使えるよう変えるべきだと指摘しています。一番の問題点は、「コミュニケーション=会話」としてマスコミ等でも大々的に取り上げられてしまったことです。当時の学習指導要領に携わった教科調査官に後にインタビューしたことがありますが、「自分としては英語Ⅰ・Ⅱできっちりと読み書きを身に着け、選択必修でリスニングなどをやるために、オーラル・コミュニケーションをつくったつもりだった。しかしメディアでも現場でも、オーラル・コミュニケーション科目ばかりが話題になってしまった」と語ってくれました。要は、教科調査官の狙いとは違った方向に進んでしまった、ということになります。

――臨時教育審議会には、政財界の主要人物がメンバーでしたから、コミュニケーション重視も政財界の意向が大きく働いたということですね。つまり、文科省は政財界の意向に従うしかない状況なのでしょうか?

鳥飼:中教審とは別に臨時教育審議会が設けられて以来、教育も政治主導になった印象ですが、政財界の方々は教育が専門ではないので、あまりよく作用していないように思います。 

 もっとも文科省の官僚だって、教育の専門家ではありません。そこで、登場するのが文科省初等中等局の教科調査官です。教科調査官は、各教科の専門家で学校現場での経験があり、教育委員会から推薦されるようです。現場を知っている人材を入れるという趣旨は良かったと思います。ですが、この教科調査官の質が教育政策に大きく影響します。

 たとえば、教科調査官になった途端、自分は文科省の人間で偉くなったという錯覚に陥る人もいるようです。教科調査官は全国の英語教員を指導して回りますが、時には「学習指導要領は法律だから守らないと法律違反」(学習指導要領は「告示」であって法律ではない)などと不正確な説明で英語教員を恫喝することさえあったと聞きます。

 また、文科省の官僚も、現場を知っている教科調査官に「英語はこうなんだ!」と言われてしまうと、現場の意見を尊重せざるをえないということがあるようです。

――政財界主導の英語教育改革がうまく機能していないこの状況で、子どもたちが英語を学ぶことが嫌いにならないようにするために、親ができることはありますか?

鳥飼:英語に苦手意識のある子どもは「こんなに大事な英語なのに、私がバカだからできない」という言い方をするのです。

 子どもたちの感覚は鋭いですから、英語に関してだけは親の目の色が変わることを知っています。英語が大事だと親が思っていること、親が自分に期待していることを嫌というほど知っている。それは子どもたちにとって大きな精神的負担となっていることを親は認識して欲しい。

 なかには、中学入試の試験科目に英語を課す学校さえ出てきています。そうしたことで、子どもはますます英語へのプレッシャーを感じ、追い詰められて行きます。そんな状況で、英語が好きになるとは思えません。それよりも、親からは何も言わず、子どもが何か言ってきたら「楽しければやりなさい」くらいの余裕でいてほしいですね。

 また、小学校で仮に英語が得意だったとしても、「小学校英語」では仕事で使えるようにはなりません。どこかの段階で、「子どもの英語」から「大人の英語」へ切り替えなければならない。帰国子女にしても、発音が完璧で流暢に話しているように聞こえますが、仕事で使えるようになるには、読み書きをしっかり勉強し、「大人の英語」へと切り替えなければならないんです。

――最後に、この本をどんな人に勧めたいですか?

鳥飼:もちろん保護者や現場の教員に読んでほしいですが、政策立案者や決定者、政財界。特に経済界の発言力は強いので、英語教育の現場をご存じない企業の方々に読んでいただきたいです。

  
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