その夢は周りをハッピーにするものかを自身に問う
ただし、と大山は力を込める。
「夢をイメージするときに大切なことは、その夢を達成したら、周りも一緒に喜べるものなのかということです。自分だけが喜ぶようなものはただのエゴです。思いが形になり、夢が実現したときに、家族や仲間やその周りまでも一緒にハッピーになるようなもの、そんな夢や思いが大切なのです。それがなければ試合には勝てないし夢は実現しない」
「夢や目標は道しるべであって、その裏側にある、この夢は何のためにあるのかをしっかり考えて行動すること。それが力を引き出してくれる原動力なります」
大山は、あの教官がいたからこそ、あの教えがあったからこそ、あの体験があったからこそ、今の自分があるんだと思える時が来る。教官の思いを受け止めて、しっかり学んでほしい。そうすれば絶対に前に進む力に変えることができる。そう言って話を終えた。
水府学院には概ね15歳~18歳の少年たちが在院している。このシリーズでは何度も書いてきたが、視聴覚室に集まる華奢な体やあどけない表情を見る限り、一般的な少年院というイメージとはかけ離れている。その点、初めて訪れた大山も驚きを隠せなかった。
大山峻護については、ぜひこちらの、「失明の危機、へし折られた腕……突き進んだ壮絶な格闘人生」(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9908)をご一読願いたい。
少年院は24時間365日体制の教育施設
法務省のHPには、 少年院は家庭裁判所から保護処分として送致された少年を収容し、更生のための専門的な教育を行う施設で、健全なものの見方や考え方などを指導する生活指導、基礎学力を付与する教科指導、職業生活に必要な知識・技能を習得させる職業指導などの矯正教育を行うとともに、関係機関との連携の下、出院後の生活環境の調整、修学に向けた支援や就労支援等の円滑な社会復帰につなげるための支援を行うと記されている。
少年院を刑務所の少年版と思われている方も少なくないと思われるが、少年院は刑罰を科すのではなく、更生を目的とした矯正教育を施す施設である。言うまでもないが、施設の性質上24時間365日の体制で日々の生活は厳しく管理されている。
少年一人ひとりに教育プランが組まれ、それぞれどこに問題点があり、その問題点に対しどのような教育を受けさせるか複数の目を通して基本計画が立てられる。仮に在院生が50人ならば、50通りの教育プランが並行して同時に動いているということである。
こうして在院中に勉強して高卒認定試験を受け、出院後、大学に進学をするケースや、高校に復学したり、または就職するなどそれぞれの社会復帰がある。
施設内でどのような教育が行われているのかは、バックナンバーのいくつかをお読みいただければ、大枠のことはご理解いただけるはずである。(「ルポ・少年院の子どもたち」バックナンバー http://wedge.ismedia.jp/category/rugby)
少年院に収容される背景は様々だが、家族からのネグレクトや虐待を受けたり、ひどい場合には家族に捨てられたというケースも過去にはあった。また、学校の友人に長年に渡って陰湿ないじめを受け続け居場所を失うケースや、教師との信頼関係を築くことができず、大人や社会への不信感を持つこともある。またスポーツにおける挫折が原因となって自分を見失う事例も過去には多かったと聞いている。
非行の背景はそれぞれだが、11カ月という教育機関の中でマイナスをプラスに変えて、社会へ復帰させなければならない。そして2度と過ちを犯させないことが最も重要な課題となる。