専門性を持った外部講師の役割とは
そうした観点から今回のような講話はどのような意味を持っているのだろうか。水府学院の地引宏和法務教官にお話を聞いた。
「私たちが行っている矯正教育はある程度枠組みが決まっておりますので、外部講師の方に期待したいことは、専門的な知識や技能を直接ご指導いただいたり、その道でしか体験できないことをお伝えいただくことにあります。我々が教科書を見ながら指導するのとではまるで意味が変わってきます」
「書道や音楽、美術などのクラブ活動も同様に専門家に直接指導を受けることが重要だと思っています。学校教育から離れていた子たちばかりで、中には小学校すらまともに行っていなかった子もいますので、躾がされていなかったり、基本的なことを何も学ばずに来ているような子たちが入ってきますから、そういったところを外部の専門家の方々の協力を得て埋めていければと考えています。徹底してひとつの道を極めてこられた方は、にじみ出るものが違いますので少年たちへの伝わり方が違います。我々はそれと同じようには伝えられません」
それを受けて佐藤修次長はこう語る。
「それにもうひとつ、矯正教育の目的とは社会生活に適応させることです。消極的にいえば、社会のルールを守って犯罪や非行に陥らせないことですが、積極的に考えれば、環境をしっかり受け止め、乗り越えて、自分自身の生活を切り開いていくことです。極端ですが、引きこもってしまえば再非行はしません。しかし、それでは社会に適応しているとは言えません」
「我々が共有している矯正教育の目的とはしっかり自己実現を図ることです。それを教え示さなければいけないのですが、我々がすべてを出し尽くしても、どうしても足りないものがあります。それは一つの道を究めた方々の知識や経験のような本物にしか出せないものです。そういった意味では、今回の大山さんの講話は彼らにぴったりです」
自己実現を図るために必要なもの
「心に火を灯すとか、健全な方向にシフトチェンジして突き進んでいけるような気づきの機会を与えることが必要です」
「彼らの非行の背景には自分が何者であるのかが判然としていないことが挙げられます。一般的には思春期の課題としてのアイデンティティの混乱なのですが、彼らには時間的な展望がなく、その場、その時がよければ、それでいいと考えたり、自暴自棄になって犯罪に走る傾向があります」
「自分自身の生き方を徹底して貫いている方を通して、アイデンティティの確立に繋がっていけばいいと考えております」
「また非行の背景にある視野の狭さも問題です。これしか選択肢がないと思って非行に走ってしまう。それを防ぐためには視野を広げることが必要です。そうった観点から、いろいろな外部講師の方からお話を聞く機会を作ることによって、アイデンティティの確立や視野の拡大に繋がってほしいと考えています」
と佐藤次長は語り、地引教官はこう繋ぐ。
「自己実現を図るには夢は大切です。そこへ向かう原動力がなによりも重要で専門性を持った講師の方が、そこでしか知りえない貴重な体験を通して伝えてくれるのは本当にありがたいことです」
「これまでもラグビーやライフセービングをはじめ外部講師が語られた言葉によって心を動かされた少年たちが大勢います。生活の端々に言葉となって表れてきます」