2024年4月20日(土)

中東を読み解く

2017年11月27日

 今回のテロはシシ政権にとっては計り知れないほどの痛手だ。2013年に軍事クーデターで政権を奪取したシシ大統領の看板はなにをおいても「治安の回復」だったからだ。先月にも、西部の砂漠地帯で治安部隊が過激派の待ち伏せ攻撃を受け、16人が殺害される事件が発生している。

 シシ大統領はこの事件後、治安関係の高官や軍指導者らを更迭した。米ニューヨーク・タイムズによると、その中には、大統領に唯一真っ向から助言できるマフムード・ヘガジ参謀長も含まれていた。参謀長の娘が大統領の息子と結婚するなど2人の個人的な関係も深かった。

 年13億ドルの軍事援助をしている米国の国防総省当局者らは、シシ大統領のチェック役として同参謀長に期待していただけに、この更迭は米側にも影響が大きかった。シシ政権はロシアやフランスなどから航空機、戦車など高価な兵器の購入契約を結んだが、米国は軍事費をそうした兵器に対してではなく、シナイ半島の過激派対策に投入するようシシ政権を説得してきた。

 しかし、シシ政権指導部は米国がイラクやアフガニスタンで過激派封じ込めに失敗した事実に言及して、米国の助言には聞く耳を持たなかった、という。こうしたシシ政権指導部の姿勢は「欧米への劣等感の裏返しであるいびつな誇り高さ」(アラブ専門家)を示すものだろう。

米統参議長の警告が現実に

 米軍はシナイ半島の危機的な状況に懸念を高め、ダンフォード米統合参謀本部議長が先月、「ISが世界各地の分派を動かそうとしている」として、とりわけ「シナイ州」に強い憂慮を表明していた。今回の事件はまさに議長の懸念が現実になったもの、と言えるだろう。

 シリアとイラクでは、ISの組織がほぼ壊滅し、残党約3000人がイラクとの国境沿いのシリア・デリゾール県の砂漠地帯でシリア政府軍やレバノンの民兵軍団ヒズボラと戦闘を続けている。しかし、IS本家がこうして滅亡の一歩手前の状況にある中、「世界各地のIS分派の活動は一段と激化し、残虐になろうとしている」(ベイルート筋)ようだ。

 今回のエジプトのテロ事件だけではなく、アフガニスタンやフィリピンでの最近のIS分派の台頭はそうした見方を反映するものだ。「本家に代わって分派の復讐が始まった」(同)。世界は今、新たな脅威に直面しようとしている。
 

  

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