ニューヨーク中心部マンハッタンで車暴走テロを起こしたウズベキスタン出身のサイポフ容疑者は過激派組織「イスラム国」(IS)の指南書を忠実に実行したものであることが分かってきた。しかし、ISは2日後に素っ気ない犯行声明を出したものの、容疑者の氏名にさえ言及せず、逮捕された“死に損ない”には冷たい対応が浮き彫りになっている。
指南書は機関誌「ルミヤ(ローマ)」
組織壊滅が近いISはテロ戦略を完全に変更した。本拠だったシリア、イラクからの工作員を送り込むことや、欧州に潜伏する休眠工作員に指令を出すことをやめ、ネットを通じて社会的な不満を強める欧米の若者やはみ出し者、犯罪者、精神異常者らに標的を絞って、「十字軍」に対するテロを呼び掛ける作戦だ。
こうしたテロの呼び掛けで指南書の役割を果たしているのが、ISの機関誌「ルミヤ(ローマ)」(2016年11月号)だ。米紙などによると、ルミヤはテロの手段として車を使うことを指示。レンタカー店での車の調達や、テロの実行場所である人通りの多い現場の選定の仕方などを詳述。
車についても人をはね飛ばすのに高速で走れ、障害物も乗り越えられるような車種を選ぶようアドバイス。アッラー(神)の敵を殺りくするため、不信心者の遺体を踏みつぶすまで車を疾走させるよう教えている。
しかも、車によるテロを実行した後は車外に出て、銃やナイフなどで人をさらに殺すよう指示。車外に出る際には、ISに対する忠誠を叫び、またISを称えるようなことを紙に記してばらまくよう進めている。
また、テロの実行前には、イスラムの指導者に忠誠を誓う証を残すよう求めてもいる。これはイスラム初期の時代、預言者ムハンマドに忠誠を誓った儀式を再現するもののようだ、という。
米連邦捜査局(FBI)などの調べによると、サイポフ容疑者はこうした指南書の教えをほぼ忠実に実行したようだ。トラック運転手をしていた容疑者は度重なる交通違反で車両保険が維持できなくなり失職。人生に強い不満を抱えていたとされる。1年前に犯行を決意し、2カ月前にトラックによるテロを計画。犯行直前に下見をするなど周到な準備を行っていた。
サイポフ容疑者のスマホには、IS関連や指導者バグダディなどの写真3800枚、捕虜の処刑などの動画90点が保存されていた。犯行を実行して車外に出た際には、指南書通り、「アッラー・アクバル」(神は偉大なり)と叫んだ上、容疑者が「ISは永続する」と書いた紙もトラック近くで見つかった。