2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年12月21日

 「イスラム国」が敗北した後、その領域を誰が支配下に置くかの競争が起っています。その中で最も精力的に支配領域を広げようとしているのが、アサドとイランの連合勢力です。

 この論説は、そのイラン・アサド連合の動きに警鐘を鳴らし、米国とそのパートナーが対抗する必要を説いています。

 米国にはシリアに軍事的にかかわり続けることへの強い抵抗がありますが、結局、米国はそうする以外にないのではないでしょうか。上記論説でロウギンが主張しているようなことが、いやいやながらにせよ、米国の政策になる可能性が大きいです。そう判断する理由のいくつかを上げると次の通りです。

 第一に、イスラエルはイランがシリアで大きな影響力を持つことに強く反対です。トランプはイスラエルに親近感があり、イスラエルの言い分に耳を傾ける可能性が高いと思われます。

 第二に、トランプの中東政策はサウジ重視です。米国がサウジと共に支援してきたシリア内の反政府勢力、主としてスンニ派が、イラン・アサド連合に撃破されることを米国もサウジも座視しないでしょう。またシーア派の地帯が、イラン、イラク、シリア、さらにはレバノンに伸びることを、サウジ、ヨルダンその他のスンニ派諸国は警戒しており、それは米国の対応に影響を与えます。

 第三に、トランプ政権はイランに厳しく、さらに、米国人の多くは、アサドは自国民に銃を向けたことで、政権を担い続ける資格がないと考えており、アサドが再びシリアの統治者になり得るとは考えていません。

 「イラン・アサドがシリア全土の軍事的制圧を目指す限りシリア問題の外交的解決はない」との指摘は重要です。イラン・アサドにそういう目的は達成不可能と知らしめ、シリアの事実上の分裂を認めさせ、連邦主義による自治の許容によって問題を解決する方向に向かうことが重要でしょう。

 シリア全土での選挙で新しい政権を選ぶことでは、問題は解決しないでしょう。「イスラム国」の敗北は、「イスラム国」誕生前のシリア内戦の状況に戻ったことしか意味せず、まだ問題の解決への道は遠いです。

 このシリア情勢を含め中東情勢は、米国が孤立主義には戻れないことをトランプ政権に実感させることになるように思われます。

  
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