島を訪れる日本人の目的はビジネスだけではない。今年8月、日本人のツアー客ら9人がロシアのビザを持って国後島を訪れていたことが明らかになった。ツアーを仲介したサハリンの旅行会社のホームページでは、「市内終日観光」などと日本語で書かれた国後島旅行のモデルプランを見ることができ、他にも島を訪れる旅行客が少なくないことがうかがえる。国後島にあるホテルに電話で取材すると、以前から日本人旅行客は夏場を中心に多く、バックパックを背負った学生もいたと証言した。
プログラムは来年から第2期に入り、重点は観光におかれる。観光を水産業と並ぶ主要産業にするのがねらいで、豊かな自然や温泉を売りにした観光施設の建設が進められる予定だ。先取りしてホテルの開業も相次ぐが、ここでも日本人渡航者が島の発展に寄与してしまうのだろうか。
ロシアの本気度と日本の無関心
ソ連崩壊後の混乱が続いた90年代、北方領土の住民は厳しい生活を余儀なくされ島を離れる者も相次いだ。この時期、住民の間では日本による経済開発に対する期待が高く、93年に色丹島で行われた住民投票では島の返還に賛成する住民が83%にも上り、ロシア政府を慌てさせた。しかし、経済発展が軌道に乗った今では返還に賛成する住民は完全に少数派だ。ロシア政府による巻き返しがこの変化をもたらした。
ただし、金融危機以降ロシアも予算が厳しくなり、開発プログラムに一部遅れが出ているのも事実だ。それでも去年1月の段階で計画の80%の予算が執行されており、計画倒れが多いロシアでは驚くほどの数字だ。今回の訪問で大統領は必要な資金は必ず投下すると約束しており、北方領土への本気度は相当なものだ。
これまでの交渉では、00年までの平和条約締結に全力を尽くすことで一致した97年のクラスノヤルスク会談や、色丹と歯舞の2島返還を定めた56年の日ソ共同宣言を出発点とすることをプーチン大統領(当時)と確認した01年のイルクーツク会談など、事態打開の局面はあったが、日本は結果を出せなかった。政権交代後は鳩山由紀夫前首相が意欲を見せたが、外交音痴ぶりを露呈し辞任したのはご存じの通りだ。
日本外交が迷走している間に北方領土では日本人が手を貸す形で経済開発が軌道に乗りつつある。現状を見る限りではロシアに完敗なのではないだろうか。モスクワから7000キロ以上も離れた辺境の地に巨額の資金を投下するロシアには、経済効率を度外視してまで領土を維持しようという強い覚悟が感じられる。領土問題においては、実態を継続的にウォッチすることと、それに基づいた戦略的な対応が欠かせない。これを怠った日本の混迷は深い。
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