これまで自動車の車載ソフトウェアはリコールなどのトラブルがない限り、新車を購入した後には書き換えられることがなかった。FOTAによって車載ソフトウェアが随時、書き換えられることで、スマートフォンの新バージョンにアップデートするのと同じように、自動車においても新機能が即座に使えるようになるのだ。
ワイヤレスでソフトウェアをアップデートする仕様で先鞭をつけたのが米EVメーカーのテスラモーターズだ。15年に発売した車種から採用している。こうした技術の導入により利便性は高まるが、ハッキングなどリスクも高まる。
こうした自動運転やFOTAには、自動車技術の保安を担当する国交省、通信技術担当の総務省、交通安全・規制担当の警察庁と複数の官庁が関係してくるため、連携して新技術を見極め、新しい標準や規制を作る時代になっている。しかし国交省は「保安基準に影響があるものであれば、認証の申請をしてもらう」としており、その判断はメーカー任せだ。このため実効的な規制はまだ見えてこない。
組織の壁を越えた関係づくりが
ルールメイキングにも影響
発想が遅れているのは官だけではない。日本の自動車メーカーは、「現地・現物」「匠の技」といった、これまで培ってきた現場力に依存し過ぎた。また、垂直統合モデルによるものづくりの成功体験が、自動運転など新たな技術の開発に必要なオープンイノベーションへの発想の転換を遅らせている。
その1つの例が前述した開発現場へのVR導入の遅れだ。それが、要素技術はありながら欧米メーカーに比べて自動運転の商品化でもたつく要因の1つにもなっている。
英国の開発受託企業(エンジアリング会社)であるRicard(リカルド)日本法人の岡村暁生社長は「シミュレーション技術を使って膨大なムダを省くことを欧州は得意としており、組織間の人材の流動性も高いので、そうした手法が『共通言語』になっている。それに対して、日本は会社ごとの技術標準が強い傾向にある」。