2024年12月27日(金)

坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2017年12月12日

 顧客と契約した品質基準を下回る製品を、顧客の了承なしに出荷していたことが発覚した神戸製鋼所。数十年間にわたって行われていた不正が工場からの自己申告によって発覚したことだけは評価できるが、顧客、そして最終消費者の信頼を裏切った罪は重い。

(iStock.com/Jirsak)

 今回明るみになった同社の不正は、アルミや銅、鉄鋼の強度といった、消費者の人命に関わるような非常にシリアスな問題だ。そのレベルの不正を行うことを部長クラス以下で判断することはできず、恐らく事業部長もしくは役員クラスで判断し、その情報は社長にも報告されていたと推測できる。

 では、社長はどうすべきであったのか。それは言うまでもなく、決められた品質基準を厳守させることだ。なぜなら、品質を高めることが会社の発展につながるからだ。

 私がエルピーダメモリの社長を務め、米アップルへ携帯電話用DRAMの販売交渉をしていたとき、機器の使用上、全く必要のないほど高い品質基準を求められた。何度も試行錯誤した末、設計、製作プロセスを変えることで基準を満たすことができた。

 結果として、携帯電話用DRAMに対するアップルの品質基準を世界で初めてクリアし、受注を取り付けた。それだけでなく、高い品質基準を満たす製品を作り出したことで歩留まりが改善され、大幅なコスト削減につながった。

 この経験から、高い品質基準を守ることが、製品価値を高めるだけでなくコストを削減し、会社の発展にもつながることを身にしみて感じている。こうしたメリットを品質管理の最後の砦(とりで)であるトップ自身がよく理解していなければ、品質不正を根本的に解決させていくことは難しいだろう。

 そして、ここまで品質管理がずさんになっている体制下では、品質の最終責任を持つCQO(最高品質責任者)が、品質に関する情報をCEOだけでなく取締役会にも報告する仕組みも必要だ。日本企業の中で、品質についてCEOとは別に取締役会にも密に報告している企業はほとんどないだろう。

 また、いくら品質基準を守ろうと努力しても達成できないような過剰な基準であるならば、顧客と交渉し、妥当な基準に変えるべきだ。各社の安全基準をはるかに超えた守れない基準のためにデータを偽装し続け、基準が形骸化しては意味がない。現場の従業員の意識低下を生むだけだ。

 彼らは、自らが製作する製品が、最終消費者にどう使われているのかをしっかりと理解していただろうか。最終的に航空機や自動車などを構成する部品として使われ、人命に関わるものであるということを会社が徹底して教育し、現場の従業員の士気を高めることも、不正を防ぐために重要なことだ。

 品質こそ、日本の「ものづくり」が世界に誇れる部分であるはずだ。それをないがしろにしては、もはや日本企業ではなくなってしまう。

  
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◆Wedge2017年12月号より


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