サウジ版維新の行方
いずれにしろ、原油価格の低迷と人口増加(90年は1500万人、現在は3200万人)を考慮すると、2万人の王族を筆頭とする超金満・格差社会が、今後も続けられるとは思えない。11月にはムハンマド・サルマン皇太子の指示により、汚職容疑で王子11人、他大物実業家、現職閣僚ら有力者数十人が一斉に逮捕されたのは記憶に新しい。
「王族からの権力と金力の奪取、宗教の呪縛からの解放」―これらは明治維新時に、大名と武士の特権を奪い、廃仏毀釈により仏教を弾圧したのと似ている。サウジは王室の最高位が自分以外の旧体制を打破しようとている点で、江戸幕府が消滅してしまった日本とは違う。けれども旧体制の権力を削ぎ、国柄を刷新するという意味では、サウジ版維新といえそうだ。
維新の成否について、その阻害要因となりそうな気がかりな3点を挙げておく。
- 労働にかかわる長年の慣習や意識は簡単には変わらない。外資により職を作っても、その職を全うできるサウジアラビア人は当分不足する。その意味で、若者は海外でのインターンでの就労などで、別の労働環境を体験することが望ましい。中長期で人材育成が変革を妨げるリスクとなる。
- アラムコの株式上場と政府の収入増のためには、原油価格を上げる必要がある。けれども原油に頼らない国を作るために、原油に頼るという苦しい状況ともいえる。今後バレル60ドル(WTI原油先物)をつけ、もしも70ドル台へと価格が上りつめていけば、再び原油頼み経済に戻ってしまうのではないか。産油国とは案外そういうものだ。サウジアラビアがGDP-20%を記録(82年)したときにも、石油依存体質を抜け出さない限り、サウジアラビアの王朝は危ういといわれていた。
- イエメン内戦への介入はサウジアラビアに高くついたのではないか。無差別爆撃や陸海空封鎖処置によるイエメン国民に対する非人道的な行為が明らかになっている。空爆などの犠牲者は1万人を越え、人口2700万人のイエメンで700万人が飢餓状態で、90万人がコレラなど疫病に感染している。多くは子供たちだ。
さらに11月4日には敵対するフ―シー派により、首都リヤド近郊の国際空港に向けてイエメンから弾道ミサイルが発射され、サウジは石油プラントの防御を厳重にする必要が生じている。
日本、韓国、スペイン企業などがかかわった南西部にある新興のジザン製油所(ジザン経済区)は、フ―シー派が支配する山岳地帯のイエメン北国境から100キロ程度しか離れていない。サウジアラビア内が戦争状態になれば、原油はバレル100ドルを目指して急騰するだろうが、外資は進出に二の足を踏むし、外国人が働きに行くのも躊躇する。サルマン皇太子が自ら前のめりになったイエメンへの軍事介入が、改革をとん挫させ、自らの失脚を招きかねない最大のリスクとなっている。
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