2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2017年9月23日

 サッカー・ワールドカップは異質な民族が集う世界最大の祝祭である。祝祭では日常の仮面が剥ぎ取られ、本性が明らかになる。各民族の強さや脆が露わになる。サッカー巡礼者の心構えで筆者が訪れた前回ブラジル大会では、日本はまさに脆さが見えた。ロシア大会では是非雪辱を果たしてもらいたいものだ。

 そのためのヒントを教示してもらうのに、最も相応しい方は誰か? 思い浮かんだのは、「ブリオベッカ浦安」テクニカル・ディレクターの都並敏史さんだ。日本サッカーの過去・現在を踏まえ、未来像を描き、かつ元代表で日本一の代表ファンでもある。そして、ディエゴ・マラドーナさえ激怒させた狂気の左サイドバックの異名を持つ。

都並敏史さん

美しさは現実の前に敗れる運命なのか

風樹 日本のサッカーは、選手、関係者、ファンを含め、パスを美しく回すのがその流儀だと思っていた節があります。例をあげれば、中田英寿、小野伸二、中村俊輔などの華麗な中盤の選手がそろっていた2006年のドイツ大会、また本田圭佑、長友佑都選手などが「日本のサッカーを見せる!」と意気込んでいた前回2014年のブラジル大会です。いずれも惨敗してしまいました。なぜ、華麗なサッカーがもてはやされてきたのか、またそれが日本的サッカーなのでしょうか?

都並 それは歴史的な経緯があるからです。日本のサッカーはしばらくの間、ブラジルサッカーの影響を強く受けてきた。選手も監督も外人で一番多いのはブラジル人です。ぼくが所属した読売クラブとヴェルディでブラジル人と接してきた結果からいうと、ドゥンガは例外としても、基本的にブラジルは夢のある、個人の能力を全面に押し出すサッカーで、ジーコ監督がまさにそうで、ドイツでは惨敗した。相手を研究して潰すというサッカーではない。ブラジル的なサッカーは力のある個人、組織があって初めて実るものだと最近になって気付いたのではないかと思います。

ブラジルW杯、コロンビア戦を前にコロンビアサポーターと交流する筆者。「寿司なんて食っちゃまうぞ!」 コロンビアサポーターの合言葉だった

風樹 今はその反省にあるといえるのでしょうか?

都並 もちろん、反省と研究を繰返しながら進んでいる。先日のオーストラリア戦がまさにそうで、全員がコレクティブにハードワークをして、守備をしていく。それでなくては技術レベル、戦術レベルの高い国には勝てないのではないか。ぼくの考えではワールドカップというのは南米、ヨーロッパが互いに切磋琢磨して、戦術や守備を勝つために補ってきた。たとえばブラジルに勝てないからアルゼンチンは守備をどうするかを考えたわけで、日本でも相手を潰してなんぼや、という考えが浸透してきた。

風樹 都並さんは、アルゼンチンのぺケルマン(現コロンビア代表監督)を尊敬していらっしゃるとのことで、2007年に彼が監督をしていたメキシコのトルーカFCまで行って師弟関係を結んでいますが、それはなぜですか?

都並 日本のサッカーに合うのでは? そう思ってアルゼンチンやアルゼンチンサッカーを学んでいるメキシコに勉強に行ったところ、サッカー人生の中で非常に得るところがあったんです。規律がなければ日本人のサッカーのレベルではまだ難しい。これは日本の教育も関係していると思って、日本は先生と生徒みたいな感覚があるじゃないですか。

 ぼくは、ずっとブラジルサッカーと触れあってきて、もちろんいい点もあるけど、ヴェルディを離れてアビスパ福岡に所属したときに、パチャメさん(86年メキシコ大会、アルゼンチン優勝時のヘッドコーチ)というアルゼンチン監督の下でプレイしました。この方のサッカーがやけに守備にうるさくて、規律がある。細かく緻密で戦術などを言語化しているんです。でも南米だから攻撃は自由がある。

風樹 それはサルサなどの踊りについてもいえますね。サルサクラブに行くと、日本人は南米の人よりもうまく踊っているといってもいい。でも、やっぱり学習したもので、自由がいまひとつない。意外性に乏しい。「美は乱調にあり」なのに綺麗過ぎる。南米では踊りはもちろん勉強する人もいるけど、基本こどものときから踊るわけですから。

都並 それはそのとおりですね。踊りについていえばサッカーを研究すればするほど、両者の密接な関係が見えてきます。たとえばシュートを打つときのゴールキーパーを前にしてのステップとか。日本の選手は慣れていないから、うまくいかないところがあります。

風樹 とくにカポエラ(奴隷達が練習していた格闘技。舞踏の要素も)は、ブラジルサッカーそのものですね。ゆっくりとした緩慢な動作から急に詐欺のように物凄いスピード技をしかけてくる。

カポエラはブラジルサッカーそのもの

都並 日本は盆踊りだからなかなかむずかしいけど、でもやはり日本のリズムにあったいいものを作り上げなくてはいけないと思います。


新着記事

»もっと見る