2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年12月1日

 その上で、もっと一歩踏み出す所が中国「大国外交」の神髄だ。「経済グローバル化の中で中国と世界は既に利益のまじりあう局面を迎えた。中国が発展すればするほど世界にもたらすチャンスは大きくなる」。

 「中国脅威論」への懸念を払しょくした上で、「中国なしには世界は生きていけない」と現実を見せ付けるやり方だ。

 中国にとっての武器は、巨大市場を背景にした経済力。劉暁波氏へのノーベル平和賞が決まって以降、欧米諸国の多くが人権問題改善を強く要求できないのは、経済報復を恐れているからであり、中国はそれを逆手に国際社会が「一党独裁」に異を唱えられない環境をつくり出す外交を展開しているのだ。こうした手法は当然のところながら北朝鮮には通用しない。

北朝鮮問題には漢方薬がいい? 「扱い」に困る中国

 「中国脅威論」の高まる中で降って沸いたのが、北朝鮮のウラン濃縮施設建設と延坪島砲撃事件だった。日米韓は一斉に、北朝鮮に影響力を持つ中国が影響力を行使するよう求めるわけだが、実際のところ中国の対北朝鮮外交は、国際社会からの圧力要求と、伝統的友好国・北朝鮮を刺激したくない配慮の板挟みの中で妥協を繰り返してきた。

 北朝鮮をめぐる核危機は、1993~94年の第1次、2002年から現在まで続く第2次があるが、1953年の朝鮮戦争休戦後で初の韓国領土攻撃である今回の砲撃はそれを上回る衝撃だ。

 しかし中国の北朝鮮対処方針は、第1次核危機以降、さほどの変化はない。当時も知る日本の複数の元外務省高官の話を総合するとこうなる。

 「北朝鮮が不安定化すれば、中国も巻き込まれるから、なんとしても朝鮮半島が戦火に巻き込まれる事態は避けたい。エネルギーや食料などの『命綱』は中国が握っているのだから影響力を行使すれば何とかなると思われがちだが、中国は北朝鮮を刺激すれば、どれだけ反発するか身を持って分かっている。一定の影響力があることは確かだが、扱いに困っている」。

 「北朝鮮問題の解決は、副作用の少ない漢方薬による治療が最もいい。西洋治療つまり手術では、ある部分が悪くなってメスを入れても、すぐ別の場所が悪くなる」。当時から北朝鮮政策に携わり、今もその最前線に立つ武大偉がこう話すのを筆者は聞いた。中国は、自尊心の強い北朝鮮との外交では「圧力」ではなく、「説得」を優先するが、日米韓から見れば、その接し方が生ぬるいと映ってしまうのだ。

「国際協調」と「対北配慮」の狭間

 中国の北朝鮮外交における転機は、言うまでもなく2003年の6カ国協議開始。「責任ある大国」と認められたい中国は、議長国として常に「国際協調」と「対北配慮」の間のバランスを考慮するギリギリの対外政策を余儀なくされた。中国外務省報道官は今回の黄海での米韓合同軍事演習について当初「反対」ではなく「懸念」を表明。その後「中国の排他的経済水域(EEZ)内で許可を得ずに、いかなる軍事行動を取ることにも反対する」と表現を変えた。黄海でのEEZは中韓で確定しておらず、このあいまいな範囲での演習反対を唱え、実際に行われても米韓との対立を避ける柔軟な戦略に乗り換えたとも言えた。

 過去にも、北朝鮮による核実験やミサイル発射などを受けた国連安保理の舞台で中国は、北朝鮮への最大限の配慮を示しながらも、日米などの求める「国際協調」を優先することが多く、核実験を実施した北朝鮮に対する06年10月の制裁決議は中国も賛成して採択された。


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