自己責任論と社会問題化する論調が併存
彼の死を受けて盛んに言われているのは「創業不易(起業は易しいことではない)」ということ。1月25日に発表され、たちまち10万レビューを超えた元CCTVの王利芬の記事のタイトルは「34歳の茅侃侃が逝去、起業の残酷な一面を開く」というものだった(http://mp.weixin.qq.com/s/xC3pBem6v5LE1xdOsc9uXg)。
記事中では、起業の成功率がいかに低いか、数少ない成功者もいかに辛酸をなめているか、そして既存の業態と衝突することの多いスタートアップはネズミのようなもので、規則やこれまでのやり方を振り回して規制しようとする猫(管理者)にいつつかまるか分からないと指摘している。そのうえで「一番言いたいのは、もし企業家が国家の大黒柱で優秀な企業家が国家の宝ならば、起業家の群れというのは企業家の予備軍であって、多くの起業家が生まれてこなければより多くの企業家が生まれてくることもないのだ。わずか34歳の起業家が世を去った今日、投資家や政府の管理部門が起業家に同情と共感の心を持ち、起業環境の残酷さを少しでも減らすよう望む」としている。
彼がそもそも起業に向いていなかったという自己責任論もある。2月1日の南方週末は「茅侃侃の残したため息」と題した記事で「茅侃侃はかつて取材を受けて、管理は苦手で実は起業には向いておらず、仕事をする方(単なるワーカー)に向いていると答えている。ただ、『80後の起業スター』という称号が彼に選択の余地を与えなかったようだ。その自殺は起業の残酷さを明らかにした。起業の夢は美しいが、すべての人が皆起業に向いているわけではない。起業したい人は慎重に考える必要がある」とした(www.infzm.com/content/133152)。
自己責任論や、投資家の無責任さを指弾する記事も多いが、彼の死を契機に起業家の負うリスクを社会で考えるべきという論調は強い。
起業家の49%が精神疾患抱えるとのデータも
起業の負担がいかに大きいかをまとめたのは、起業家のための情報プラットフォーム「創業邦」の1月28日の記事(www.cyzone.cn/a/20180128/323305.html)。ここ最近の起業家の死について列記した部分があり、一部引用すると、2011年に上場直後の取締役(思いうつ病を罹患)が飛び降り自殺、15年に上場後の会社の取締役が心筋梗塞で43歳で死去、16年に長年うつ病を患っていた社長が46歳で自殺、16年に44歳の起業家が心筋梗塞で死去、17年にはOTA(オンライン取引の旅行会社)大手の途牛の予約センターの副社長が心筋梗塞で44歳で死去、18年に38歳のゲーム界の著名起業家が脳溢血で死去……と紹介されている。
「かつて242人の起業家に調査を行ったケースがあり、その結果によると、うち49%の起業家が何らかの精神的疾病を患っており、割合の最も高いのがうつ病、次いで注意欠陥障害(ADD)、不安障害だった」
いったん起業すると私生活がなくなり、あらゆるエネルギーを仕事に投じることになり、精神面の健康を害する原因になっていると指摘する。記事の最後には、心理的危機に陥った人のための無料相談ホットラインの情報が掲載されている。起業家のためのプラットフォームだけに、その至れり尽くせり具合には少し肌寒いものを感じる。
「大衆創業」を掲げる中国で社会問題化しつつある起業のリスク。スタートアップ支援の方向性を打ち出して久しい日本も、真剣に向き合うべき問題だ。
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