2024年11月22日(金)

「犯罪機会論」で読み解くあの事件

2018年2月23日

 仮に二人の姿がマンションの住民や通行人に見られても、後ろからついて来た女児が自ら進んで車に乗り込むという状況の下では、女児が連れ去られているとは思われなかっただろう。

 実際、宮崎自身も、「先に立って階段を下り、ときどき後ろを振り向きながら、〇〇ちゃんの歩く速度に合わせて、5メートルくらいの間隔をおいて歩いて行った。間隔をおいたのは、人に見られたとき、自分が〇〇ちゃんを連れているという感じを与えないようにとの考えからである」と供述している。

神戸連続児童殺傷事件では
「ついてこさせる」状況を作り出している

いわゆる宮崎勤事件において、4番目の事件の連れ去り現場となった保育園の玄関前

 4番目の誘拐事件(東京都江東区)では、高層アパートの1階にある保育園の玄関前から女児が連れ去られたが、この事件でも、宮崎は、「〇〇ちゃんの歩く速さに合わせるようにして、7メートルくらい先を、間隔を取りながら歩いて、4号棟の東側道路に下りる階段を、歩道へと下りて行った」と供述している。

 こうしたケースでは、「知らない人にはついていかない」と教えても、ついていくことを防げない。なぜなら、警戒心が解かれ、親密感が増しているので、連れ去り犯は、すでに「知っている人」になっているからだ。

 神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)では、「ついていかない」どころか、逆に「ついてこさせる」状況が自然に作り出されている。

 「ここら辺に手を洗う場所はありませんか」と丁寧に尋ねた少年A(酒鬼薔薇聖斗)に対し、「学校にならありますよ」と答えた女児を連れ出し、殺害したわけだが、少年Aは、「女の子が先に歩き、僕はその女の子の後ろから歩いて行きました」と供述している。

 子どもが誘拐された事件のほとんどは、だまされて連れ去られたケースである。ほとんどの犯罪者は、強引に子どもの手を引いて連れ去るような愚かなことはしないのだ。宮崎勤事件も、神戸連続児童殺傷事件も、そうしたケースだったことを忘れてはならない。そうしたケースでは、「不審者に気をつけて」と連呼しても、防犯ブザーを持たせても、大声で助けを呼ぶ練習をさせていても、事件は防げない。

 にもかかわらず、こうした事実を知らない人の方が圧倒的多数である。そのため、子どもの安全対策や防犯教育は、現実とはかけ離れたものになっている。


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