2024年12月8日(日)

「犯罪機会論」で読み解くあの事件

2018年2月23日

 今から30年前、世間を震撼させる事件が発生した。4人の子どもを次々と殺害した「宮崎勤事件」だ。その宮崎勤も、ちょうど10年前に死刑が執行され、すでにこの世を去っている。はるか昔の事件のようにも思えるが、その後も、子どもが誘拐され殺害される事件は全国で相次いでいる。昨年3月に起きた千葉県松戸市のベトナム国籍の女児が殺害された事件は記憶に新しい。

 なぜ事件が繰り返されるのか――それは、宮崎勤事件のときに、「ボタンの掛け違い」が起きてしまったからだ。

(iStock/udra)

犯行動機は外からは見えない

 当時、マスコミはこぞって、宮崎勤の「性格の異常性」に注目した。このように、「なぜあの人が」というアプローチを取る立場を、犯罪学では「犯罪原因論」と呼んでいる。この立場は、性格の矯正や境遇の改善においては有効である。だからといって、犯罪をしそうな人をあらかじめ発見できるわけではない。犯行動機は外からは見えないからだ。

 ところが、宮崎勤事件以降、まるで「動機は犯行前に見える」と言わんばかりに、「不審者」という言葉が多用されている。前述した松戸市の女児殺害事件の後は、「知らない人」だけでなく、「知っている人」も「不審者」と見なされるようになってしまった。

いわゆる宮崎勤事件において、最初の事件の連れ去り現場となった歩道橋

 しかし、「不審者に気をつけて」では、30年経った今でも宮崎勤事件は防げない。例えば、最初の誘拐事件(埼玉県入間市)の手口を振り返ってみよう。宮崎勤は女児を歩道橋の上からマンションの駐車場に止めておいた車まで連れ去ったが、その方法は実に巧妙だった。

 まず、歩道橋の階段を上り始めた女児の姿を目にした宮崎は、同じ階段ではなく反対側の階段から上っていった。そして歩道橋の上で女児に近づくと、目の前に腰をかがめ、笑顔で「涼しいところに行かないか」と声をかけた。しかし無理強いせず、「今来た方でいいんだよ」と言ってから、一人で先に歩道橋を下りていった。

 何と巧みな戦略だろうか。歩道橋を反対側から上ることで偶然の出会いを装い、腰をかがめて目線を同じ高さにすることで親近感を抱かせ、先を歩くことで警戒心を解きながら追従心を呼び起こしたのだ。


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