—— 今回の反響で特攻が「美化」されるという懸念はありませんか?
鴻上 そういうことはないと思います。佐々木さんは、特攻という不合理な「命令」に抗った人で、そういう佐々木さんが崇められるのは、むしろ良いことではないでしょうか。部数が伸びるに連れて、反響が大きくなりましたが、右側かなと思われるような人からでも、「こんな上官ならごめんだ」というコメントをもらいました。不合理な命令をされてそれを強制的に実行させられるというのは、右も左も関係なく、「たまったもんじゃない」ということだと思います。
—— 現代に生きる我々が佐々木さんという人が存在したことを知る意義とは何でしょうか?
鴻上 やはり、「いのちを消費する日本型組織」というものに対して疑問を持つことです。「桜はパッと散って潔い」などと言いますが、桜は毎年咲きます。いま、団塊世代の人たちが現役から去って、こうした疑問も受け入れられやすくなっているのではないでしょうか。団塊世代までは「戦場で死ぬ」という例えがあるように、猛烈に働いた結果、職場で死ぬといったことが美談として語られてきたように思います。それに対して「おかしいんじゃないの?」と言えるようになってきたのが今です。
もう10年早ければ、当時の関係者が存命していたこともあり、最初に私に会ったときに佐々木さんが「大ごとにはしたくないんです」と言われたように、やはり話してくださらなかったのではないかと思います。そういう意味でも、出るべく時に出た本なのかなと思います。
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