旧日本陸軍のパイロットだった佐々木友次さん。昭和19年(1944年)10月に「特攻隊員」に指名された。その後、9回出撃して9回とも帰還した。この佐々木さんへのインタビューを収めた『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)は、15万部を超える大ヒットとなった。筆者である鴻上尚史さんに、なぜいまこの本が読まれるのか聞いた。
編集部(以下、——) 『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』に先立って出された小説『青空に飛ぶ』(講談社)では、いじめを受けて自殺を考えている帰国子女である中学生の少年と佐々木さんが出会うという設定で、少年が自殺を思いとどまるという物語を描かれています。なぜ自分は佐々木さんに興味を持つのか? という少年の自問に「日本人らしくないから」と答えさせています。
これが、鴻上さんが佐々木さんという人物に興味を持たれたポイントではないかと思いました。学校で行われるいじめ、日本の会社組織、そして70年前に行なわれた「特攻」と共通するのは「同調圧力」であり、その圧力に一般的な日本人は屈してしまいます。
鴻上 まさに「日本人らしくない」ということが始まりです。9回出撃して帰ってきているというのは、日本人離れしています。
—— 本書がこれだけ大きな反響になったのはなぜでしょうか?
鴻上 現代にも続く「同調圧力」の強さに共感してくれているのだと思います。ブラック企業、ブラックバイトによる長時間労働によって、悲鳴をあげている人は少なくありません。担当編集者が帯びに書いてくれたように「いのちを消費する日本型組織に立ち向かうには」というのは、戦前の軍隊でも、今でも変わっていません。この日本型組織に対して、たった1人で戦った佐々木さんに勇気をもらっているという部分があるのではないでしょうか。
—— そもそも佐々木さんは、なぜ9回も帰ってこられたのでしょうか? 普通であれば、「もういいや」となってしまうというか、上司(軍隊でいう上官)の命令は絶対であり、なかなか逆らうことはできないと思います。
鴻上 まず言えるのは、佐々木さんが飛び抜けて優秀なパイロットだったということです。死に物狂いでスキルを身につけました。同時に飛ぶことが大好きだった。九九双軽(九九式双発軽爆撃機)という、それほど評判のよくない飛行機が佐々木さんの与えられた飛行機である(しかも、特攻では本来4人乗りの九九双軽を1人で操縦する)にもかかわらず、佐々木さんは「鳥のように飛ぶことができた」と話していました。
佐々木さんは、技量があるからこそ、つまり爆弾を敵艦に命中させて帰って来られるという自信があったし、実際に成功させています。しかし、帰還するたびに「なぜ体当たりしなかったのか?」と怒声を浴びせられ、僚機が1機も付かない中での、自殺行為ともいえる出撃を強制され、いつの間にか目的が敵艦を沈めることではなく、体当たりして死ぬことにすり替わってしまいました。
現代の「残業」も同じです。仕事があるから残業するのではなく、上司がまだ帰らないから残業する、というように残業そのものが目的化してしまっています。