駱駝が砂漠を渡る平山郁夫の絵は知ってるけど、「文化財保護」なんて固いイメージとどう関わりがあるんだろう? 待てよ、そういえばアフガニスタンの巨大な仏像がタリバンに爆破されたニュースは昔見たことがあるな。そこは中央アジアで、中央アジアと言えばシルクロードだよね…。その通り、平山は1959年の院展に入選した作品《仏教伝来》から一貫して、仏教のルーツを探っている。その道筋にあたるシルクロードが描かれた。平山は空想で描いたのではなく、なんと百回以上もの現地の旅を重ねて、作品を制作していた。この50年あまりの間、アジアでは幾度となく戦争が行われ、現地にある貴重な遺跡=文化遺産は破壊された。現在東京国立博物館で開催されている《特別展「仏教伝来の道 平山郁夫と文化財保護」》では、平山の旅の軌跡と訪れた各国の文化遺産と、それらの保護活動の成果と共に画業の集大成ともいえる薬師寺の《大唐西域壁画》が展示されている。
企画趣旨を、担当研究員の松本伸之氏に聞いた。「仏教伝来を主題とし、第一部の構成は玄奘三蔵が辿った道筋、第二部はその逆になっています。平山先生は2004年から東京国立博物館の特任館長としてご指導戴いていました。今回は、先生の作品制作と文化財保護という偉大な業績を見せようと、2009年12月に79歳でご逝去されてから一年弱で組立て、実現となりました」。
厳選した文化財とこだわりのディスプレイ
第一部は、インド&パキスタン、アフガニスタン、中国―西域、敦煌、西安&洛陽&大同、カンボジアという章に分けて、各国の風景をモチーフとした作品が文化財と共に展示されている。
文化財は難しく見えるだろう。文化財とは大きく分けて三つの側面を持つ。当時の宗教儀式に関わるもの、歴史的背景を語る史料、造形的美しさを読み取る美術である。どこから見ても構わないのが第一部の魅力となっている。当時文化財がどのように使用されていたのかを想像するのも楽しいし、洋服や髪飾りの文様を記憶して文化の流通を想起することも可能だ。
仏教が発生した頃、仏陀という偶像を描いたり彫ったりすることは避けられていた。それがギリシャ彫刻との交流もあって、次第に具現化されていく。その初期の例が、《仏陀立像》と《仏伝図「カーシャパ兄弟の仏礼拝」》だ。一方は自立し、他方は壁に付随する壁画的彫刻。見る者が立つ位置によって、見解が大きく異なるであろう。また、一方はパキスタン、他方はアフガニスタンと、同じ時代でも地域の違いが服にも表れている。《持香炉菩薩跪像》も壁画である。カタログの解説では、ウイグル族が支配していた頃の特徴を認識できるという。《舎利容器》は純粋に美しい。今でも使えそうな容器だ。