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2018年4月2日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

制裁同調せず、ロ外相の誕生祝い

 今回の事件についての日本政府の動きは鈍い。安倍晋三首相は3月20日、英国のメイ首相との電話協議で、事件の説明を受けたが、「化学兵器の使用は容認できず、使用した者は処罰されなければならない。早期に事実関係が解明されることを期待したい」と伝えたにとどまった。外交官追放の可能性には言及がなかった

 先方の要請で行われた電話協議だと言うから、おそらくメイ首相の狙いは、英国の立場を強く支持してもらうところにあったのだろう。しかし、安倍首相の発言は、まったく「我関せず」としか思えない。制裁同調が伝えられなかったことへのメイ首相の失望は大きかったろう。

 実のところ、日本は、外交官の追放に同調するどころか、正反対のことをしている。

 3月21日、ロシアのラブロフ外相を東京に招き、河野太郎外相との会談が行われた。以前から外交日程に入っていたのだろうが、日英首脳電話協議の翌日、欧州を中心に、ロシア外交官の追放が盛んに行われている最中だ。延期という手段は考えられなかったのか。

 しかも、この日はラブロフ外相の誕生日とあって、昼食会では特製のケーキまで振る舞われたという。英米などにはこれがどう映ったか。

 両外相は会談で、北方領土での共同経済活動の実現に向けた作業を加速させることで合意したという。「共同経済活動を進め、領土問題を解決し、平和条約を締結していく」というのが、安倍首相の対ロ外交の基本戦略。

 確かに、北方領土問題は日本にとって、戦後最大の外交案件だ。プーチン大統領とウマがあうといわれる安倍首相は、自らの手で解決したいという強い意欲をもっているのだろう。

制裁見送ったら領土返るのか

 北方領土がいま一歩で解決するという状況なら、あえて凶暴な行動に目をつぶってロシアとの関係を優先するという選択もありうるかもしれない。しかし、いまはそういう時期ではない。共同経済活動の見通しも明らかではないし、「その程度のことで領土の返還を期待するのは無理だ。簡単ではない」など、悲観的な政府関係者は少なくない。

 今回の英国での事件の展開次第では、英国や米国など外交官追放を断行している各国から、日本にも協力要請が正式になされるかもしれない。すでに欧州の外交筋から「我々の側についてくださるんでしょうね」という非公式要請がなされているという情報もある。

 拒否するのはいいが、それで北方領土問題に何の進展もなかったらどうする。まさにアブハチとらずではないか。

 日本はロシアによる2014年のクリミア併合の際も、新投資協定交渉開始凍結など科した制裁は申し訳程度にとどまっていた。政府系金融機関による資金調達の禁止などを行った米国などに比べると遙かに軽い制裁だった。これすべて北方領土問題の解決を優先するためだ。

 もちろん欧州の制裁にしても濃淡があり、必ずしもロシアとの関係悪化を望まない国も少なくない。米国にしてからが、トランプ大統領が、今回の神経剤襲撃事件での外交官追放には慎重で、側近の進言でしぶしぶ踏み切ったともいわれている。

 それを考えても、日本の消極性は際だっている。領土問題を抱えるから制裁には慎重というのでは、尖閣問題、竹島問題を抱える中国、韓国にも誤ったメッセージを送ることにりかねない。

 日本はこれまで、北朝鮮の拉致問題を各国に支援を求めるとき、国家犯罪であり人権と主権の侵害だーと訴えるのが常だった。神経剤襲撃事件は主権侵害ではないのか。自分が被害者の時は協力を求め、他国が被害者の時はほおかむりというのでは、各国からの支援など望むべくもない。尊敬もされないだろう。

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