腕の振りが最大のカギ
図1は、西武時代の名残のある、ボストン・レッドソックス時代の投球フォームである。右投手の場合、投球動作は、左足を上げ、腕を後ろに引くことから始まる。これを「初期コッキング」という。左足が着地してから、胸が大きく張られるまでが「後期コッキング」。コッキングというのはゴルフでもバックスイングの時、手首を反らす時にいうが、本来は「銃の引き金を引く」ことに由来する。
コッキングの後、リリースをするまでが「加速期」。球離れした後、腕は、ブレーキがかかる「減速期(フォロースルー期)」を迎える。減速期も初期、後期に分かれるが、動作解析上、投球側の腕が地面と平行になるまでの時間を「初期減速期」として後期と区別している。
石橋さんは、それぞれの段階で要する時間を計測し、大リーグ投手の平均、日本のプロ野球1軍先発投手の平均、さらには大リーグで活躍する日本人選手(大谷翔平、田中将大、ダルビッシュ有の3人)で比較した。それが図2である。
同じ動きであるならば、時間が短いほど強い力がボールに伝わり、速いボールを投げられることを意味する。バットスイングを考えればわかりやすい。同じ軌道ならば、速いスイングの方がボールに力を伝え、遠くへ飛ばすことができる。
この表から読み取れるのは、初期減速期で日本人投手は、大リーガー平均より0.01秒速い。腕が強く振れていると思いたいところだが、事実はそう単純ではない。
石橋さんは「日本人投手はメジャー選手より、下半身が低く前傾しているので、リリースから地面と平行になるまでの距離(腕の振り幅)が短い。その結果0.01秒速いのではないか。大リーグは体が立った状態で投げて着地するため、地面と平行になるまでの距離が長く、時間がかかっているだけ」と分析する。
腕の振りの強さを見るには、初期減速期と合わせて加速期を見なくてはいけない。この加速期の、日本の1軍選手は大リーガーより0.01秒遅い。胸を張り、もっとも強くボールに力を伝えるこの期の遅さは、やはり腕が強く振れていないことを意味する。それは球速の差にでている。
大リーグで活躍する田中やダルビッシュは、この加速期の時間が大リーガー平均と同じであるにもかかわらず、減速期は短い。大リーグのマウンドに対応し、前傾が少なくなったことを考慮すると、田中、ダルビッシュの腕の振りは、大リーグの並の選手より強いことの証左だ。
松坂もこの腕の振りができるか課題となる。広島のトレーナーを務めた石橋さんは、田中やダルビッシュに引けをとらない、松坂の潜在能力に期待を寄せる。それを開花させるのが西武時代のフォームに秘められた「第5の回転軸」だ。