米国で2016年に刊行されるやいなや評判を呼び、翌年のアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞ベスト・ファクト・クライム部門の候補に選ばれただけのことはある。とにかくスリリングで、ページをめくる手が止まらない。
素材、表現、組み立ての妙。そして、ノンフィクションならではの現実の重み。ドクター・ディ・マイオの人生観を浮かび上がらせつつも、饒舌になりすぎないフランセルの筆致。
本書に取り上げられている事件は、どのエピソードをとっても、謎解きの面白さにとどまらず、社会の問題や人生を考えさせる短編小説になっている。
オズワルドの死体は替え玉?
まずは、2012年にフロリダ州で起きた黒人少年射殺事件。自警団を組織していた白人男性が少年を撃ったことから、正当防衛か、それとも人種差別によるヘイト殺人か、当時のオバマ大統領もまきこんで全米に波紋が広がった。事件の鍵を握っていたのは、少年の胸に残されていた銃創だった。
<あらゆる集団リンチは思いこみから結論に飛びつくことで始まる。そのような多くの例を目撃してきた我々は、思いこみから結論に飛びつくことが致命的な過ちを生むと、そろそろ学んでしかるべきだ。>
<多くの人がジョージ・ジマーマンの射殺を白と黒の事件にしたが、まったく白と黒の事件などではなかった。>
<真の問題は司法の不公正ではなく、一連の不幸な過ちが、致命的な双方のオーバーリアクションにつながったことだった。>
さらには、「シリアルキラー」という言葉や「代理ミュンヒハウゼン症候群」という診断名がまだなかった1960年代の乳幼児殺し事件。
2003年、ロサンゼルス郊外にある大物音楽プロデューサーの豪邸で、女優が口を撃たれて死亡した事件。
1993年、田舎町の森で8歳の男児3人が虐待され、殺された事件。悪魔崇拝に傾倒していたとされる地元のティーンエイジャー3人が有罪となり、主犯格の少年には死刑が宣告された。しかし、のちに冤罪が叫ばれて、ディ・マイオが真相究明に乗り出す。
1963年にテキサス州ダラスでケネディ大統領を暗殺し、その2日後に殺されたオズワルドのエピソードも興味深い。埋葬された死体は替え玉だったと主張する英国人作家が現れ、死後18年たって墓が掘り起こされることに。ディ・マイオを含む法医学者チームが死体の身元確認にあたるが・・・・・・。