このような経緯で生まれた珍駅弁は、大人の旅客にも好評をもって受け入れられ、3つの世紀に渡り親しまれる駅弁として今に至る。現在の静岡駅では、中身は鯛飯だけの安価な「元祖鯛めし」(570円)に加えて、幕の内弁当のようにおかずが充実した「特製鯛めし」(760円)と、2種類の鯛めしが売られている。
弾力のある食感を楽しむ
駅弁の名称に敬意を表し、「元祖鯛めし」を手に取ろう。真っ赤なタイが踊る古風なデザインのふたを外すと、小さな経木折いっぱいに鯛飯が詰められている。桜飯と呼ばれる醤油御飯に、魚のオボロがたっぷりまぶされている。
伝統の鯛飯は、食べる前にまず、割りばしの先で御飯を押してみることもおすすめする。御飯が面を持ってググっと沈み、押さえることをやめるとムムムっと隆起し元に戻る。静岡駅弁の鯛飯の特徴は、この弾力性である。口の中でもその特性が、モチモチっとした食感として生かされて、粒の立つ御飯と甘めに味付けされたオボロの味を引き立てる。
760円(東海軒)
デパ地下などで買える総菜としての鯛飯はだいたい、ふんわり、ほろほろしているものだ。駅弁の鯛飯は、常温での販売や日持ちを考えてのことか、静岡駅弁の「元祖鯛めし」がそうだったからか、たいていかちっと締まっている。これが明治時代から紀行文や旅行ガイドブックに記される、伝統の味である。
汽車の旅は電車になり、新幹線へと発展した。静岡駅でも木造駅舎が駅ビルになり、地平の線路は高架に上がり、駅弁はホーム上での立ち売りから駅弁売店での販売へと変わった。しかし静岡の鯛飯は世紀を越えて、今でも駅で容易に入手できる。視覚と味覚で明治を味わい、114年の歴史を感じてみたい。
※次回は、3月31日(木)更新予定です。
どうぞお楽しみに!
福岡健一さんが運営するウェブサイト「駅弁資料館」はこちら
⇒ http://eki-ben.web.infoseek.co.jp/
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