中国の台湾政策の基本は、軍事的圧力、外交的圧力、経済的取り込み、台湾人の人心への訴えかけを駆使し、台湾の併呑を目指すことである。台湾と国交を持つ国に主として経済的誘惑をもって台湾との断交、中国への外交関係の切り替えを迫るのは、国際機関への台湾の参加阻止とともに、外交的圧力の中心的手段である。今回のドミニカは、その最新の例である。中国に対し宥和的であった馬英九政権下では「外交休戦」として、そうした動きが一時的に中断していた。しかし、「一つの中国」を強く拒否する蔡英文政権に交代してから外交的圧力を再開、強化、アフリカのサントメ・プリンシペ、中米のパナマ、そして今回のドミニカ共和国と台湾との断交に持ち込んでいる。その結果、台湾と国交を持つ国は19か国と、過去最少の数になった。
台湾の当局者によれば、中国は、ドミニカ共和国に対し31億ドル以上にのぼる投資・融資を持ち掛けた由である。上記声明も強く非難する通り、まさしく札束外交である。しかし、中国による投資・融資には不透明な点が多く、対中負債の増加よる対中依存の高まりを招き得る。中国の援助で建設されたスリランカのハンバントタ港が中国の国営企業に99年間リースされることを余儀なくされたのは、その典型的な例である。台湾政府は、サントメ・プリンシペに対する中国の約束が履行されていないことなどを指摘し、残りの19か国に中国の札束外交に屈しないよう呼び掛けているが、それが功を奏するかどうかは分からない。今後とも、台湾を「外交」の場面から排除しようとする中国の動きが弱まることは考えられない。
中国の攻勢を受け、台湾と正式な外交関係を持つ国が減少する中、米国を中心とする、台湾の孤立化を防ぐような動きが、ますます重要性を増すことになる。最近、米国は、米台間の高官の往来を勧奨する「台湾旅行法」の制定、台湾に対する武器売却への積極姿勢など、台湾を支持する強い姿勢を示している。日本としても、TPPに関心を示している台湾の加盟を後押ししたり、国際機関への台湾の参加を支援していくといった対応が考えられる。
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