Washington Files

2018年5月27日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 トランプ氏は去る5月22日、ホワイトハウスで文在寅韓国大統領と会談した際、「金正恩氏は中国国家主席との2回目の会談を行った際、(米朝首脳会談への)態度が少し変わった。私はそれが気に入らない」と不満をもらした。

習近平は、世界一流のポーカーのプレーヤー

 さらに習氏に対しても「彼は私の友人だが、世界一流のポーカーのプレーヤーだ」とコメントし、北朝鮮の態度の変化の裏に中国が何らかの影響を及ぼした可能性にまで言及した。その習氏は中朝首脳会談終了直後の8日、トランプ氏との電話会談で「米側は北朝鮮側の安全に対する関心事を考慮すべきだ」とも主張、金氏の立場を代弁したとも受け取れる発言をした。トランプ氏の習近平氏についての「ポーカー・プレーヤー」コメントは、そのことを念頭にしたとも受け取られる。

 実際に金委員長のアメリカに対する態度が急に硬化したのも、「大連首脳会談」以後である点も興味深い。具体的に以下のような動きがあった:

  1. 北朝鮮外務省が16日に予定されていた南北閣僚級会談を中止すると一方的に韓国側に通知(16日)
  2. 金柱冠北朝鮮第一外務次官が国営朝鮮通信を通じて談話を発表「われわれは過去すでにボルトン(米大統領補佐官)の資質を明らかにしており、彼に対する反感を隠すことはない」としてボルトン氏を痛烈に批判(16日)
  3. 崔善姫北朝鮮外務次官が談話を発表、マイク・ペンス副大統領について「無知蒙昧で足りない間抜け」と酷評(24日)

 このうち、ボルトン、ペンス両氏をとくに名指しで激しく批判した理由は、すでに報じられている通り、両氏が、かつて核兵器を保有していたリビアがアメリカ初め西側諸国との関係正常化の約束と引き換えに核計画を断念したことを例に挙げ、北朝鮮に対しても同様の「リビア・モデル」の踏襲を迫ったからだった。リビアでは、核放棄を決断した当時の指導者カダフィが、アメリカも介入したその後の内乱で殺害された経緯があり、北朝鮮としては同様の要求はとうてい容認できない。

 北朝鮮が自国だけの核廃棄を断固として拒否し続けている背景には、こうした歴史的教訓がある。

 では、米朝首脳会談の今後の見通しはどうなるのか。

 トランプ大統領は24日、「開催中止」を一方的に北朝鮮側に通告後、翌25日には、一転して「北朝鮮と協議中であり、6月12日予定通り開催されるかもしれない」とホワイトハウス記者団に語り、再び会談開催への意欲を示した。

 問題は、なんとしても会談を実現させるために、トランプ・ホワイトハウスが北朝鮮に対して要求してきた核兵器の「完全で検証可能で不可逆的廃棄」(CVID)の従来の立場を今後もとり続けるかどうかだ。

 「トランプ、対北朝鮮即時非核化要求から後退」―ニューヨーク・タイムズは22日、こんな見出しを掲げ、トランプ大統領が、これまで北朝鮮に対し非核化を無条件で受け入れさせるとしてきた強硬姿勢を後退させ、即時ではなく段階的な核撤廃にも応じる柔軟姿勢を表明した、と報じた。

 アメリカの他のマスメディアも、大統領が開催まですでに3週間を切ったこの時点で、北朝鮮側への歩み寄りを示唆する発言をしたことについて、核兵器の「即時完全撤廃」要求を引っ込め、「段階的撤廃」へと譲歩してもなんとか金正恩朝鮮労働党委員長との会談開催にこぎつけることで、なんらかの「成果」を世界にアピールしたいとの個人的あせりもあることを報じている。

 大統領はホワイトハウスで記者団を前に「北朝鮮の核計画の規模からして、一度に核兵器を全廃するのは困難かもしれない」ともコメントしており、今後、首脳会談を再び軌道に乗せるために、金委員長に対し、一層の歩み寄りの姿勢に転じる可能性は否定できない。

 しかし、仮に会談が実現することになったとしても、「北朝鮮非核化」か「半島非核化」という根本的対立点が、ただちに解消される可能性はほとんどゼロに近い。なぜなら、この米朝間に立ちはだかる深刻な断層は、2国間だけで対処できる問題ではなく、韓国、日本、中国、ロシアの周辺諸国間の慎重な協議を必要とするからだ。
  
 従って、核軍縮専門家たちがかねてから指摘てきた通り、朝鮮半島核問題の最終的解決のためには、これまで中断してきた「6カ国協議」の再開がカギを握っているといえよう。

  
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