大統領選挙の命運を左右した、米国のいわゆるラストベルト地帯。トランプ大統領は製造業の復活、石炭産業への保護を前面に打ち出し、この地域で大きなサポートを得ることができた。その公約を果たすために、政権が本格的に動き始めた。
米国では電力供給において、シェールガスが豊富なことも原因の一つではあるが、以前から脱原発、脱石炭火力の動きがあった。代わりに台頭してきているのが風力、太陽光などの自然を用いた再生可能エネルギーだ。
しかし5月29日、米国では「極秘文書」と名付けた文書がウェブ上ですっぱ抜かれた。「DOE Grid Draft Plan」というこの文書だが、要約すればエネルギー省が「国家安全保障のために石炭、原子力による電力を電力会社が部分的に購入することを義務付ける」というものだ。
その理由として挙げられているのが、今日の自然パワーを使った電力供給は従来型のような安定性を欠くものである。そのため、国家の防衛、基本的なインフラを有事に機能させるためには「信頼できる」電力ソースが必要であり、その条件を満たすのが石炭、原子力である、というものだ。さらに米国の産業保護という観点からも石炭、原子力、重油、ナチュラルガスによるエネルギー供給は外すことのできないものである、と続く。
ここで問題になるのは、米国内の電力会社のほとんどは民間会社によるもの、あるいは自治体政府が運営するもので、連邦政府にはそのエネルギー供給源を指定する権限はない。特にカリフォルニア州においては電力会社の自然エネルギーへのシフトは顕著だ。しかし、憲法により「国家安全保障にかかわる事態」であれば例外となる。
このためエネルギー省では今後5カ所の国立研究所の協力を得て、石炭と原子力によるエネルギーの購入を電力会社に対して義務付けることができるかどうかの検証作業に入る。すぐに結論は出ないが、今後24カ月で検証結果が発表される予定だ。
検証ポイントとしては、
- ナチュラル・ガスに依存した電力の場合、ナチュラル・ガス採掘現場から長距離のパイプラインによる搬送が必要となるが、パイプラインが長距離になるほどに脆弱性が指摘される。
- 電力会社のエネルギー供給源は一定の信頼性に基づいて選択されていることは間違いないが、この信頼性について有事想定などの場合には再検証の必要性がある
- 今後エネルギー会社はサイバーテロやパイプラインへのサボタージュ行為に対して対応する必要性がある。その場合、従来型の(石炭、原子力)と比較して再生可能エネルギーがより安全である、という保証はあるのか。
- 再生可能エネルギーが一定の時間帯に有用であることは認められるが、ピーク時の電力消費に完全に対応するには化石燃料への依存をゼロにすることはできない。
- このところ全米で進む石炭、原子力発電所の閉鎖は電力供給の信頼性を損なうものになるのではないか。
- 米原子力産業全体(軍事利用を含む)を守るためにも、民間の原子力産業の存在は大切な要素である。
- 原子力、石炭産業は国家の産業、防衛において基本的なインフラの一環である。
などが挙げられる。つまりこうした要素を検証し、石炭や原子力発電所の閉鎖が国家の安全保障にとってマイナスになる、という結論が出た場合、連邦政府は各電力会社に対しこれらの発電所から一定量の電力を購入することを義務付けることで、発電所の存続を諮ることができる。