2022年8月18日(木)

WEDGE REPORT

2018年6月20日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

日本は「拉致と核」切り離せ

 こうした錯綜した構図の中、日本にとって最大の関心事である拉致問題は進展が期待できるのだろうか。

 トランプ大統領は、会談後の記者会見で、拉致問題を先方に提起したと明言したが、共同声明には盛り込まれておらず、記者会見でのやりとりも、心もとない印象を与えた。「安倍首相が非核化とともに、重要と考えている問題だ」と強調したものの、金正恩がどう答えたのか明らかにせず、「取り組まれることになるだろう」など他人事のような物言いだった。

 大統領はシンガポールからの帰途、専用機内から電話で安倍首相に会談の内容を説明した際、金正恩が日本との対話にオープンであると伝えたという。これを受けて、このところ「拉致問題は、日本が自らが解決しなければならない」との方針を打ち出している首相は、日朝首脳会談実現を模索し始めた。首相の努力が早期に実を結び、拉致被害者の帰国が実現することは日本国民共通の強い願いだが、思惑通り進展するかどうか。

 北朝鮮が米朝首脳会談実現を望んでいた段階なら、善意を示して会談への環境を整えるという狙いから、何らかの前向きな姿勢を示して来る可能性はあったかもしれない。しかし、北朝鮮にとって、会談成功という目的を達した今、それが期待できるか。

 核、ミサイル、拉致の包括的解決というのが日本政府の従来の方針だ。この際、拉致問題を切り離して、この問題だけに限って北朝鮮との2国間交渉を行うのも一方ではないか。米朝首脳会談の後、米国が北朝鮮の将来のビジョンを描いた映像を公開して関心を引こうとしたように、日本も、拉致が解決されたなら巨額の経済協力を行う用意があることを繰り返し伝え、前向きの姿勢を引き出して核問題の側面支援を行っていくのが現実的ではなかろうか。

 筆者は、昨年4月にやはり当「WEDGE infinity」に掲載された「〝斬首〟より〝別荘へようこそ〟」という記事で、軍事行動や金正恩殺害などの強硬手段ではなく、懐柔するほうが効果的ではないかと書いた。「あなたの政権を認め国交正常化、経済協力もする。友人として付き合おう」と肩をたたいてプライドをくすぐれば、先方も応じてくるだろうという予測だった。今回、場所こそ違え、似たような展開になったが、トランプ大統領がこれほど譲歩したことには驚いた。懐柔は十分な対価が得られてこそ意義を見出せるのであって、与えるだけなら無意味で、むしろ、何とかに追い銭ではないか。

 米朝首脳会談に対する筆者の見方は、ことさら否定的、ネガティブであるかもしれない。懸念が過ぎるという見方もあるだろう。今後、北朝鮮が積極姿勢に出て、真摯に核放棄の作業に取り組み、懸念が杞憂に終わったならば、むしろ慶賀に堪えないというべきだろう。

  
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