2022年10月6日(木)

WEDGE REPORT

2018年6月20日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

大統領、当初から「CVID」より「凍結」? 

 一方のトランプ大統領。北朝鮮が核開発を断念することはないと十分に理解しながらも、今回の結果で、しばらくは暴発しないという心証を得たろう。大統領はハナからCVIDなど期待していなかったのではないか。首都ワシントンに到達するICBM(大陸間弾道弾)の脅威さえ除去できれば、「核の危機はなくなった」「今晩はよく眠ってくれ」(ツイッターへの投稿)と胸を張ることができる。狙いは、当面、北朝鮮の核開発を抑え込むこと、つまり〝凍結〟にすぎなかったのだろう。

 大統領は会談前、「実りあるものにならないとわかれば、すぐ丁重に席を立つ」(2018年4月、フロリダ州パームビーチでの日米首脳会談後の安倍晋三首相との共同記者会見)と大見得を切っていた。実際は席を蹴るどころか、事前に示唆していたような複数日にわたるひざ詰め談判でCVIDを迫ることもせず、一日だけの会談でさっさと切りあげてしまった。

 〝敗者〟に甘んじてまで、首脳会談の〝成功〟を演出させたのは、なんといっても国内問題が大きい。再選を目指す2020年の大統領選は2年後に迫っているし、今年秋には中間選挙も控えている。トランプ氏が2016年の大統領選で当選した時は、米国民を含めて全世界の人は「瓢箪から駒」、再選など考えられないと思ったことだろう。

 しかし、人種差別、女性蔑視など乱暴な言動、強引な政策遂行にもかかわらず、支持率は歴代大統領に比べればかなりの〝低空飛行〟ながら、30%から40%台は維持している。

 再選を狙ううえで、障害になるのは、なんといっても、〝ロアシア・ゲート〟事件だ。前回の大統領選で、ロシアの情報機関がトランプ氏の対立候補だったヒラリー・クリントン元国務長官に不利になるようサイバー攻撃を仕掛けたが、これにトランプ陣営が関与していたのではないかといわれ、大統領の側近らが偽証罪などで訴追されている。大統領の関与が明らかになれば、ウォーター・ゲート事件などとは比べ物にならない深刻なスキャンダルであり、弾劾を免れることはできないだろう。疑惑を捜査している特別検察官は大統領への事情聴取を求めている。

 大統領の地位にある人には全くふさわしくない低次元の話ではあるが、トランプ氏が、以前関係を持ったポルノ女優に、日本円で1400万円もの〝口止め料〟を渡し、関係を公にしないよう求めていた事実も明るみに出た。この支払いに選挙資金が流用されたのではないかという疑惑も取りざたされており、ことは重大だ。

 しかし、会談後の世論調査では50%を超える人が、成果を評価した(ロイター調査)というから、今回の政治ショーを窮地脱出の契機にしたかった大統領の目論見はまず成功だった。

 記者会見で「家族を殺し、国民を飢餓に追いやっている指導者をなぜ、たたえるのか」と聞かれ、「才能があるからだ。一万人一人にしかいない」と臆面もなく金正恩を褒めちぎり、米韓合同演習について「挑戦的だ」と自己批判のような発言をしたのも、すべて会談が成功したことに安堵、気をよくしたせいだろう。

 それやこれや考えると、トランプ、金正恩両氏にとって、やはりこれが〝最良の結果〟だった。大統領は会談後の記者会見で、これから何度も首脳会談を行うと明言、平壌に乗り込み、金正恩をホワイトハウスに招待する意向も示した。しかし、これ以上交渉を続ければ、双方にとって〝不都合な事態〟にならないか。CVIDの受け入れはもとより、人権、生物・化学兵器問題など取り上げざるを得なくなる。それが紛糾のタネとなって、〝かりそめの恋〟を破たんさせかねない。首脳会談は、今回が最後という悲観的な予測もあながち根拠がないとは言えまい。実際、トランプ大統領は、6月17日に金正恩氏と電話協議を行うと前宣伝していたが、まだ実現していない。 

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