2022年8月9日(火)

前向きに読み解く経済の裏側

2018年7月3日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

 日本は米国に比較的従順なので対応しようとするかもしれません。そもそも「外資に買収される」ことにアレルギー反応を示す日本人は少なくないので、国民世論としても外資による買収を規制する法律は国民世論の支持を受けやすいかもしれません。米国の覇権が脅かされているとすれば、同盟国である日本としても協力しよう、という意見も当然出て来るでしょう。

 しかしそれでも、実際に法律を作ることは容易ではないでしょう。「米国の要請だから中国資本を差別的に排除します」というのが本音だとすると、まさかその通りに理由を述べて法案を提出するわけには行きませんから(笑)。

 まして、欧州各国が米国の要請に従順に従うとも思われません。日本の外交は一般的に対外協調優先(弱腰?)であり、対米関係においても例外ではありませんが、これは世界の標準ではありません。米国の関税に対して直ちに報復関税を課した欧州の事ですから、独自の判断をするでしょう。

 そうなると、米国だけが頑張っても、結局中国は「西側先進諸国」の技術を入手してハイテク産業を成長させることができてしまいそうですね。

日本の場合心配なのは人材流出

 日本の場合、企業が外資に買収されることと並んで心配なのは、人材の流出かもしれません。それは、日本的雇用がグローバル・スタンダードと異なっているからです。ちなみに筆者はグローバル・スタンダードを礼賛するものではなく、一般論として日本的雇用を高く評価していますが、本件に関しては困ったことになりかねない、ということです。「オオカミの国より羊の国の方が平和で良い国で住みたい国だけれども、両者の国境が開くとオオカミが羊に勝つ」といったイメージでしょうか。

 労働力の対価である賃金は、個々の労働者の能力に応じて個別に決められるのが世界では普通です。そうであれば、能力の高い技術者を引き抜くためには、能力に見合った以上の高い賃金を提示する必要があります。それでも「先進国の技術者を引き抜いた方が自前で技術を開発するより安上がりだ」と考える途上国が高い給料で先進国の技術者を引き抜く可能性はありますが。

 日本の場合には、能力と賃金が必ずしも見合っていません。現役時代は年功序列賃金ですから、能力に関係なく同期の給料は概ね同じです。つまり、有能な技術者に対しては、能力に見合った賃金より低い賃金でも外資が「今の賃金よりは遥かに高い賃金を払いますから転職して来て下さい」と誘うことができるのです。

 現役世代の場合には、終身雇用のメリットがあるので、外資に転職するということは解雇されるリスクを抱え込むことになるため、転職する人は多くないようです。もっとも、経営が悪化している会社の社員であれば、終身雇用のメリットをあまり感じていないでしょうから、引き抜きが容易かもしれません。

 加えて、日本企業には定年制があります。有能な技術者でも定年後再雇用されると、「新入社員並みの低い賃金で昔の部下にお仕えする」といった目にも遭いかねないのです。

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