6月18日、トランプ米大統領は、「米国を守るには宇宙で優越しなければならない」として、国防総省に対し、米軍第6の組織(陸海空、海兵隊、沿岸警備隊に続く)となる「宇宙軍」創設に必要なプロセスを直ちに開始するよう指示した。トランプが「宇宙軍」の創設について言及したのは今年3月、5月に続いて、今回で3回目となる。
現在、米国では、宇宙における軍事関連活動は、空軍が予算関連を所掌し、統合軍レベルでは戦略軍が運用を担当している。冷戦期には、宇宙は主にソ連の核・ミサイル活動の監視や早期警戒、米国の核ミサイルの指揮統制・ターゲティングなど、主に戦略レベルの運用を主としてきた。冷戦後、宇宙は、GPSを用いた精密誘導攻撃や軍種横断の統合作戦など、戦術レベルの行動においても欠かせない領域となってきている。
宇宙の戦略的・戦術的重要性については中国やロシアがよく理解している。両国は、米国の宇宙における優位を切り崩せれば、米国の戦略・戦術上の優位を覆すことが可能であるという観点から、対宇宙能力に力を注いでいる。中国は制空権の宇宙版ともいうべき「制天権」の概念を掲げ、2007年には衛星破壊実験を実施し、2015年には宇宙の軍事利用やサイバー空間での作戦を行う戦略支援部隊を発足させるなどしている。ロシアも航空宇宙軍を創設し、軍事衛星の打ち上げ、ミサイル防衛などを担っている。
一方、宇宙空間の利用者が増えたことで、衛星軌道が混雑したり、デブリ(宇宙ゴミ)が増えるなどして、宇宙空間の安全な利用を目的とした恒常的な宇宙状況監視(space situational awareness:SSA)の重要性が指摘されている。これらを実施するには宇宙に配備するセンサー衛星の数を増やしたり、それらを支える地上インフラに投資することが必要になる。また、宇宙配備センサーはミサイル防衛にも有効となる。
しかし、宇宙活動を所掌する空軍は、戦闘機や爆撃機などの正面装備の開発取得を重視しており、必ずしも宇宙分野に優先的な投資配分が行われていない。そうした事情に鑑み、空軍から宇宙機能を独立させて、予算や取得、運用にかかる権限の自律性を高めるべし、という議論が出てくる。これは決して不思議なことではない。
他方、「宇宙軍」独立反対論者の主な主張は、既に空軍内で事実上の宇宙軍機能はある、陸海空の統合作戦でも大変なのに「宇宙軍」を増やすと統合化がより難しくなり権限争いになる、独立させても軍内部の指揮権限を整理するだけなので大幅な予算増は望めない、といった点が挙げられる。マティス国防長官をはじめ、国防総省の上層部は慎重な意見であった。