2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年7月17日

 国連人権理事会は、2006年に、人権委員会を改組する形で創設された。国連総会の補助機関との位置づけである。創設当初も、ブッシュ(子)政権下の米国は参加しなかった。その時も、人権侵害国が理事国に選ばれることの不当性を主な理由として挙げていた。米国が加入したのはオバマ政権になった2009年からである。

 人権侵害国が理事国に選出される、人権侵害に対して十分な対応ができていない、といった批判は、その通りである。ただ、それが離脱する理由になるかどうかは別問題であろう。ヘイリー大使の上記発言に「人権侵害国は、自らが調査対象になるのを防ぐために理事国となりたがる」とのくだりがある。それこそ、人権理事会に欠陥があるにしても米国が留まって改革の努力を続けるべき理由を図らずも示していると言える。米国の離脱は、中国をはじめとする人権侵害国を喜ばせることになる。今年3月には、中国主導で、人権状況の批判に際して、地域の特性、歴史、文化、宗教などの背景に留意するよう求めた「互恵協力決議」が採択された。この時、唯一反対したのは米国であった。

 米国の離脱の最大の理由は、もちろん、大方の指摘の通り、トランプ政権の親イスラエル的姿勢であろう。米国は、反イスラエルを理由にユネスコからの脱退を表明し、国連の決議を無視してイスラエルの首都をエルサレムと認定するなどしている。こうした一連の一方的な行動により、米国は威信と信頼性を著しく損ねる一方である。トランプ政権下の米国に、自由、民主主義、人権、法の支配などの諸価値の擁護者としての役割を求めるのは、ほとんど無理であると覚悟すべきであろう。日本や欧州の役割の重要性が増すことになる。

 なお、国連人権理事会は、北朝鮮による日本人拉致問題を取り上げるなど、日本にとって役に立っている面もある一方、「日本軍性奴隷問題」の解決を求める報告書が出されたといったこともある。人権理事会は、過度に礼賛すべき存在ではなく、賢明に対応していくことが肝要であろう。
 

  
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