5月に行われたイラク連邦議会選挙は、投票自体は比較的スムーズに行われたが、票の再集計、連立協議をめぐって混乱が深まっている。イラクの政情は、イランのイラクに対する影響力、ひいては中東における影響力を左右するという意味で、地政学的に大変重要である。
選挙では、シーア派の指導者、ムクタダ・サドル師が率いる政治連合「改革への行進」が第1党となった。しかし、定数329(過半数165)に対し、サドル師派は54議席を獲得したにとどまる。サドル師はイラクに対する米国、イランなど外国の干渉を排除すべしとする、ナショナリスト色の強い姿勢を示す一方、宗派色は薄くテクノクラート的政権を目指すとしている。親イランのハディ・アミリ元運輸相が率いる「征服連合」は47議席で2位、現職のアバディ首相の「勝利連合」は42議席で3位であった。
アミリ氏はイランの支援を受けてISと戦ったPMF(人民動員隊)の指導者であり、同氏を通じてイランが影響力を強めようとすることが懸念されている。サドル師は、元来アミリ氏に強く批判的であり、PMFを国軍に編入するよう主張してきた。一方、アバディ首相はバランスの取れた外交を展開してきたとして、サドル師派とアバディ首相派の連立が期待されている。しかし、両派を合わせても96議席であり、過半数には遠く及ばない。
大きな動きは、6月12日に訪れた。サドル師が、アミリ氏との政治同盟を発表したのである。両氏はシーア派の聖地ナジャフで共同記者会見を開き、サドル師は、あらゆる教条主義から距離を置いた中央政府の設立を急ぐための真の同盟が成立した、と述べた。続いて、6月23日には、アバディ首相とサドル師が会談し、両派が次期政権樹立に向けて連携することで合意した。3派が連携すれば143議席となり、過半数にかなり近づく。
アバディ首相とサドル師の勢力が連携するのは期待されていたことであるが、問題となるのは、アミリ氏の勢力との連合をどう見るべきかである。親イラン派では、同じくシーア派で、極めて宗派的なマリキ元首相率いるダアワ党が第4の勢力となっている。サドル師派とマリキ派との間には、強い確執がある。サドル師は、マリキ派が汚職とスンニ派との戦争によって石油収入を浪費してしまったと非難している。他方、マリキ派は、今回の選挙が不正なものだと主張している。