2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年7月12日

 これまでは、少数派であるスンニ派の疎外が、ISの台頭も含め、イラクの政治危機を招いてきたが、今度はシーア派同士の対立が問題となってきた。イラクの政治的混乱は、イランがイラクに対する影響力を増大させるチャンスを与える。西側と湾岸諸国は、当然、そうした事態を回避したい。エコノミスト誌6月14日号の解説記事‘Burnt votes and an election recount might plunge Iraq into crisis’は、「西側と湾岸諸国は密かに、国が分裂する前にイラクの政治家が結束するよう要請した」と報じている。サドル師とアミリ氏との連携は、そうした流れと一致する。仮に、サドル、アミリ、アバディ各派が参加した包摂的な政府ができるとすれば、イラクにとっては望ましいことである。アミリ氏派の有力議員は「連携はイラクにとって安全弁の役割を果たす」と言っている。もちろん、アミリ氏のイランに対する姿勢には、依然として強い警戒を要する。

 もう一つの大きな問題は、票の再集計である。6月6日に議会は票の再集計を議決し、6 月10 日には、100万枚の投票済用紙を保管していた倉庫が火災で焼けた。ただし、投票済用紙のほとんどは回収されたという。そして、6月21日に最高裁は手作業での再集計を承認した。手作業での再集計は9 月までかかり、再選挙は12 月の地方選挙まで行われない可能性がある。その間、政治空白が続く恐れがあるし、再集計が選挙結果に大きく影響するようなことがあれば混乱に拍車がかかろう。

 イラクは、イランから地中海方面に至る、いわゆるシーア派の三日月地帯の要に位置する。シーア派の三日月地帯をめぐっては、イランとサウジやイスラエルとの衝突の可能性が懸念されている。イランとしてはイラクの政治的混乱に乗じてイラクへの影響力を全力で確保しようと努めるであろう。イラク政治を注視する必要がある所以であるが、なかなかイラク政治が安定化する見通しは立たない。
 

  
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