2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年5月19日

 だからこそ、今回の大震災において一般の中国人が、一般の日本人の節度と忍耐強さ、そして地震そのものには耐える圧倒的技術を目の当たりにしたこと、そして3年前の四川地震や東日本大震災直前に起こった雲南地震との関連で「国境や歴史的愛憎を超えた被災者、そして日本という国への同情」が広まったことは、中長期的にみて日中関係に一定のプラス要因となるであろう。この流れの中で温家宝首相が近日実際に被災地を訪問すれば、たとえそれが中国の外交戦略のあらわれであるとしても、その効果を補強することにもなると思われる。もっとも逆に、日本という国が逆境の中にあってもあくまで整然とし節度を保っているのを眼にした中国の人々は、ますます「日本=集団主義→軍国主義」という単純な図式を脳裏で補強するのかも知れない。

総理を面罵する日本に驚きを隠せない中国

 一方中国では、震災後における日本政府の対応の遅さを訝る声が強く、それとの対比で「いち早く四川地震の被災地を復興させた。これも共産党の指導の正しさを証明するもの」と自画自賛している。

 しかし、これは日本人として真に受ける必要はなかろう。私有財産制をとり、しかも被災者や地域コミュニティの意思を尊重したガレキ撤去と復興を進める日本においては、どれだけ関係者が尽力しても合意形成に時間を要さざるを得ない。逆に中国では、近年どれほど不動産業が発展しようとも、土地は究極のところ国有であり(不動産売買はあくまで土地の使用権を扱っているに過ぎない)、しかも災害の克服スピードがそのまま共産党員の出世における判断基準ともなっている。したがって、中国における災害復興は、たとえ被災者との摩擦が生じようとも往々にして強引な「復興」となりかねない。その過程において学校などの手抜き工事が発覚し、保護者が地元政府を訴えて賠償や救済を求めようものなら、即座に公安が「社会の安定を乱す」と称して拘束に至るのは、既に四川地震の際に広く伝えられたところである。日本の被災者が内閣総理大臣をはじめとする「官司」に直接苦境を訴え面罵しても何もお咎め無し、という現実を眼にした中国の人々は驚嘆を隠せないらしい。したがって、日中どちらの措置が被災地の長期的な復興や今後の発展に寄与するのかを判断するには、恐らく中長期的な時間が必要になるだろう(筆者はもっとも、民主党政権のリーダーシップは遅々・曖昧模糊として国民に響いてこないと感じるものである)。

 また東日本大震災後、「中国では四川地震など災害からの復興にあたり、被災していない豊かな地域(直轄市・省など)と被災地域を一対一でカップリングし、責任を持って支援させた結果、復興スピードが早かった」という話題が時折紹介されるのを眼にする。しかし、中国語で「対口支援」と呼ばれるこの枠組みも、そのまま日本に適用出来るものとは考えない方が良い。何故ならこの枠組みも、全国をまたぐ独裁政党である共産党における党員個人・地方組織の評定と密接に関わっているからである。この「対口支援」は、災害支援に限らず貧困な省・自治区への援助においても展開されている。しかし例えばチベットで眼にする「対口支援」の現実は、小学校の校舎建設などであればさておき、往々にして地元チベット人の生活とは関係ない外来商人のためのショッピングセンター・住宅建設や「革命記念館」の類の建設に充てられており、現地の事情と乖離したハコもの行政の露骨な展開に過ぎないという問題がある。そうではなく、様々な自治体・集団・個人の身の丈に合った自発的で様々な支援の束が時間をかけて積もり積もることで真の復興が実現する方が望ましいことは言うまでもない。(後篇につづく)

*後篇につづく

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜


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