この熱き人々

2018年8月23日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 働きアリの協力にただ乗りするだけの働かないアリが過半数を超えると、エサもなくなり、子供も成長できず、巣は汚れ、衛生環境も劣悪になって社会は維持できずに自分たちも死に絶えて、ついには約2万匹いるという1つの巣が消滅してしまう。まさに公共財ジレンマの典型的な姿がこのように視覚的に示されると、何やら深刻な気分になってくる。

 「通常、働きアリは巣ごとに遺伝子が違うのですが、働かないアリは、その存在が見つかったどの巣でも同じ遺伝子を持っているんです。つまり、何らかの理由で他の巣に入り込んでいるということになります」

 死に絶える寸前に生き延びた最後の働かないアリは、他の巣にもぐり込んで再び働かない遺伝子を継続させながら巣を食いつぶしていく。ということは……やがてアミメアリは絶滅してしまうのではないか。

 「それが、すでに1万年以上、アミメアリは残っている。働きアリも働かないアリも両方残っているということは、危ういバランスでずっと成り立っていることになります。普通のアリの巣は女王アリが飛んできて作られるんですが、アミメアリの巣は1つの巣が2つに分かれて増えていきます。働きアリだけでも巣を増やしていけることが、もしかしたら存続に影響しているのか。これからの研究課題でもあります」

 それにもう一つ謎がある。最初は圧倒的多数であるはずの働きアリは、やがて巣を崩壊に追い込む危険な働かないアリが誕生した時に、それらを駆逐することなく、自分たちがより多く働いて彼らを養うことで問題をクリアしようとするのはなぜなのか。

 「なぜアミメアリは働かないアリを許容するのか、その理由はまだわかりません。それが解明できれば社会の寛容さの起源が明らかになるかもしれません」

虫好き少年から昆虫博士に

 

 異種を許容する──実はまだ気づかない大きな仕組みがあって、アミメアリの存続のために働かないアリが出現することに何らかの理由があるのかもしれない。まだ解明されない謎は多く、そのために研究者はDNAの解析を試み、日々ひたすら観察を続ける。今は動画があるが、かつては100匹のアリの行動を20分間すべて記録し、それを100回続けるという根気のいる作業が求められたという。

 それで何かが必ず得られるという保証があるわけではない。でも一瞬の出来事が、その後の大きな前進の手がかりになることも十分に考えられる。仮説を立てそれが証明された瞬間は、研究者としての醍醐味であり喜びでもあるが、仮説を裏切る意外なことが見つかれば、それもまた新たな道へと導く光となる。

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