この熱き人々

2018年8月23日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

働かないアリの謎に迫る

 土畑が研究者として最初に注目されたのは、13年に琉球大学の辻和希(つじかずき)教授との共同研究で発表した「子だくさんの『働かないアリ』と過労死する『働きアリ』」という論文だった。日本では過労死が社会的な問題になっていることもあって、自然界での公共財ジレンマの実例発見は関心を集めた。

 しかし、アリといえば女王アリ以外はみんな働き者と相場が決まっている。

 「研究というのは先行研究の積み重ねの上に成り立つものなので。1982年に野外でアリを観察していて、どうも働いていないアリがいるということに気づいた人がいた。それ以来、いろいろな人が研究してきたテーマなんです」

 働いていないらしいアリが発見されたのは三重県紀北町(きほくちょう)。種類はアミメアリ。研究室の巣箱のアリをよく見ると、背中に網目がある。

研究室で飼育されているアミメアリ

 「それがアミメアリです。日本ではアミメアリはどこにも存在していて、行列しているアリは十中八九アミメアリです。普通、アリは女王アリと働きアリがいて女王アリは産卵し、働きアリがエサを運び巣を管理するんですが、アミメアリはちょっと変わっていて、全員が卵を産み、みんなに平等にエサを与えて、みんなで育てる。女王とワーカーといういわゆる階級の差がないんです」

 共同で助け合って平等な社会を形成している。ある意味、理想の社会を実現してきたアミメアリの中に働かないアミメアリが出てくると、社会はどうなっていくのか。ニートや引きこもり、80代の親が50代の子を支える8050(はちまるごまる)問題などの言葉を生み出している人間の社会を頭の片隅で重ね合わせてみると、にわかに興味が湧いてくる。

 「働かないアリは遺伝子的に決まっていて、働かないアリの子もやっぱり働かない。働かないから働くことにエネルギーを使わずにすみますので、その分、長生きで卵をいっぱい生みます」

 たくさん産んだ卵の世話もしないし、もちろんエサも取りに行かない。そうなると、働きアリはその特性をますます顕著に発現して、社会を維持するために、働かないアリの割合の増加に応じて労働量がどんどん増えていき、やがて過労死してしまう。結果、さらに働かないアリの割合が増える。

 土畑は、大きな2つの壜(びん)を机の上に並べた。1つは働きアリだけの壜、もう1つは働かないアリだけの壜。働きアリたちの壜は卵も元気で巣もきれいに保たれているのに対して、働かないアリたちの壜は、卵の多くは死んでしまって巣も掃除しないから非常に汚い。

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